【目的】オレイン酸(OA)は卵白タンパク質分子表面の疎水領域に結合してマイナス電荷を付与する.その結果,卵白タンパク質分子間に適度な反発力が生じるため加熱により緻密で均質なネットワーク構造のゲルとなる.先行研究において,乾燥卵白に対してOAを添加すると加熱ゲルの強度が高くなることを報告したが,最適な添加タイミングは明らかにされていない.本研究では,OA添加タイミングの違いによるタンパク質の変性度と加熱ゲル物性に及ぼす影響を調べ,さらにその機構解明を試みた.
【方法】乾燥卵白を7倍量の水に溶解しpH9.0に調整後,予備加熱(55℃,10分)し,冷却した液をサンプル液とした.4%のOA添加は,予備加熱前(方法A)と予備加熱冷却後(方法B)のタイミングで行った.OA添加サンプル液を本加熱(80℃,40分)し,加熱ゲルを作製し,95%押し込み時の破断荷重測定を行った.OA添加タイミングの違いが,卵白タンパク質の変性度に及ぼす影響は表面疎水性により,またSS結合形成に及ぼす影響はSH基含有量および電気泳動(SDS-PAGE)により解析した.
【結果】本加熱前のOA添加サンプル液の表面疎水性および加熱ゲルの破断荷重は方法Aが方法Bよりも大きかった.本加熱したOA添加サンプル液の表面SH基および総SH基含有量は方法Aが方法Bよりも低く,分子間SS結合がより多く形成されたことが示唆された.電気泳動分析より,本加熱前のOA添加サンプル液は方法Aの方が主にオボトランスフェリンとリゾチームの凝集が促進され,その凝集にはSS結合が関与していることが示唆された.以上より,予備加熱前にOAを添加すると,予備加熱中のタンパク質分子のアンフォールディング度が高くなり,分子間SS結合の形成も多くなった.その結果,卵白加熱ゲルの強度が高くなることの一因であると示唆された.