2003 年 4 巻 3 号 p. 384-388
真の事故防止には、事故の背後にある根本的な原因の究明と具体的な防止策の検討が必要であり、我が国では、根本原因分析手法としてSHELが多く用いられている。今回、同じ事故事例をSHELと米国で主流となっているVA-RCAで分析し比較した結果、次のことが明らかになった。SHELは、フォーマットの要因に「何をどこに当てはめるのかの作業」で時間と労力を費やし、要因に含まれない項目は漏れる可能性がある。SHELは、本来、何故事故が発生したかを探るモデルであり、改善プランが定式化されていないため、実際の行動につながる有用な提言がなされにくい。これに比し、VA-RCAは、コストと時間がかかるが、時系列で出来事流れ図を作成し経緯をビジュアル化することから、根本要因など事故の構造に基づく分析ができ、思考のプロセスが明確になることから学習効果も高い。また、質問を繰り返し、根本原因分析質問カードも有効に機能することから、SHELの2倍以上の根本原因が抽出され、システムやプロセス上の問題からみた対策を立案でき、その対策も事故の再発防止につながる有用なものであった。したがって、警告事象における根本原因分析手法は、VA-RCAが推奨に価する。