抄録
鳥類起源論争が決着に至る過程はものの見方の観点のみから説明されるべきではない。この論争にHenry Gee は旧来の進化シナリオに基づく見方と分岐学に基づく見方の対立という構図を当てはめ、後者が獣脚類説を支持したと説明するが、実際にはこれ以外に重要な要素が存在した。系統仮説の根拠となる形質の増減は議論の方向性に影響を及ぼし、形質に関する議論はものの見方の対立とは異なる領域で行われた。形質を根拠とした議論において獣脚類説以外の説が覆されてからそのような議論はほぼ無くなり、論争は形質以外の要素を主軸とした主張と分岐学に基づく主張の二項対立の様相を成した。更に、古脊椎動物学研究者コミュニティ内での動向も重要だった。分岐学が支配的な方法論となったことで、獣脚類説に反対して分岐学とそぐわない形質以外の要素を主軸とした主張をしていた研究者は周辺化され、研究者コミュニティ内で深刻視されなくなったのである。