日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-4-1
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グライコミクスの新展開
レクチンプロファイル技術が拓くグライコプロテオミクスの世界
*平林 淳
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抄録

生命第3鎖として語られる糖鎖は、細胞単位で合成系(ヒトでは200種強の糖転移酵素群)が起動し「グライコーム(glycome)」を形成する。タンパク質のうち小胞体・ゴルジ体に輸送されるものの殆どは翻訳後修飾としての糖鎖付加を受け、糖鎖機能は比較的単純な役割(構造安定化やでデリバリー)から、免疫、炎症、癌などの細胞認識における機微と高次機能発現(細胞シグナル)、さらにはインフルエンザ・細菌毒素に代表される微生物感染の高機能化に至るまで、幅広い生命現象にどっしりと根を下ろしている。糖鎖研究は今やリソース発掘、ツール開発の時代を終え、その有効活用にむけた新展開の時期を迎えている。本講演ではNEDOの糖鎖エンジニアリングプロジェクト(H15~H17年度)で演者らが開発したレクチン利用による糖鎖解析技術とその実用化に向けた試みについて述べる。第一に、レクチンライブラリーの開発とこれらと100種以上の標準糖鎖との相互作用解析をフロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー(FAC)によって行なうことで、レクチン・糖鎖間の親和力を精度高く求めた。このために、島津製作所と共同でFAC自動化装置を開発し、解析ソフトを含めた実用機の開発を達成した(Methods Enzymol. 415:311-325, 2006)。得られた網羅的相互作用データはレクチン分子情報とともに三井情報と共同開発したCabos Databaseに登録し順次公開していく予定である。一方、本レクチン情報を元に糖鎖プロファイリングに有効なレクチンを選別し、簡易、高感度に糖タンパク質糖鎖の構造情報を取得できるレクチンマイクロアレイの開発に成功し、エバネッセント波励起蛍光法による専用スキャナーがモリテックスから販売される運びとなった(Methods Enzymol. 415:341-351, 2006)。本装置を用いればウエスタンブロットに用いる程度の微量糖タンパク質で高精度なプロファイリングができる他、疾患関連バイオマーカーの探索や再生医療などにおける細胞の品質管理にも使える見込みがつきつつある。以上述べた糖鎖用の解析ツールは広くプロテオーム研究者に活用してもらえることを期待している。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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