日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-6-2
会議情報

プロテオミクスの新技術
iTRAQおよびProtein iTRAQによる疾患関連タンパク質の探索
*川崎 博史田口 宏美山中 結子進藤 真由美苅田 育子成戸 卓也今川 智之森 雅亮横田 俊平平野 久
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 疾患マーカータンパク質や病因タンパク質の探索のためには、特定の疾患患者群とその他の集団の間のタンパク質の発現の差異を定量的に比較することが必要である。プロテオミクスにおいて、従来はタンパク質の分離と定量には二次元電気泳動による解析が用いられており、質量分析法は電気泳動のスポットの定性的な同定法であった。近年、ゲル電気泳動によるタンパク質の分離を行わずにLC-MSと同位体標識法によって、試料間の発現タンパク質量の差異を分析する方法がいくつか開発されている。
 iTRAQ試薬は、アミノ基と反応するペプチド標識試薬である。同位体で標識された4種類の試薬は、すべて同じ質量の修飾ペプチドを生成する。同じタンパク質に由来する複数のペプチドのMSMSスペクトルによって、タンパク質の同定と試料間の量比を定量することができる。通常は、酵素消化によって生じたペプチドをiTRAQ試薬で標識し、LC-MSMSで同定・定量を行うが(iTRAQ法)、タンパク質をiTRAQ試薬で修飾した後に酵素消化を行い、同定・定量を行うことも可能になっている(Protein iTRAQ法)。
 私たちは、4歳以下の乳幼児にみられる急性熱性疾患である川崎病の病因解明を目指して、血清、血漿中に存在する疾患特異的なタンパク質の探索を行っている。これまでに、急性期と回復期の血清を対とした2D-DIGE法よる解析によって、急性期には炎症性タンパク質の発現量が、回復期には抗炎症性タンパク質の発現量がそれぞれ増加することを明らかにしている。今回、9名の川崎病患者の急性期、回復期の対と18名の正常小児の血清を用いて、急性期、回復期、正常小児の3群の間でのタンパク質の発現の差異を2D-DIGE法、iTRAQ法によって解析した。また、Protein iTRAQ法による分析では、患者の血漿交換外液を用いて分析を行った。iTRAQ試薬によるタンパク質の修飾の後、すべての試料を混合し、ゲルろ過による分画を行い、その後タンパク質を酵素消化した。これらの分析によって、以前の結果と同様に炎症関連のタンパク質の増減が観察された他、いくつかの興味深いタンパク質の変動を見いだすことができた。
 この結果をもとに、2D-DIGE法、iTRAQ法、Protein iTRAQ法の特徴や疾患関連タンパク質の探索における有用性について議論する。

著者関連情報
© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
前の記事 次の記事
feedback
Top