日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S2-2-1
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構造プロテオミクスの最前線
鋳型に依存しないRNA重合反応の原子メカニズム
*濡木 理
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抄録

遺伝子に蓄えられた遺伝情報は、遺伝暗号の翻訳過程における精密な酵素反応の集積により、正確にタンパク質として翻訳され、生命に必須な機能を発揮する。特にトランスファーRNA(tRNA)は,mRNA上のコドンに特異的なアミノ酸を対応づけることによって、正確な遺伝暗号の翻訳を保証している。tRNAのアミノ酸が結合する3’末端には、あらゆる生物で保存されたCCA(シチジン、シチジン、アデニン)という配列があり、アミノアシル化だけでなくリボソームにおけるペプチジル転移反応にも必須な役割を果たしている。このCCA配列は、CCA付加酵素というRNAポリメラーゼの一種が、鋳型DNAを使うことなしに、修復あるいは新規に重合する。我々は、真性細菌Aquifex aeolicus由来のCCA付加酵素とプライマーとなるtRNA前駆体(末端がCC)、および基質であるATPの3者複合体の結晶構造を2.8Å分解能で決定した。その結果、本酵素は、鋳型DNAの代わりに酵素のアミノ酸残基で構成された「タンパク質性の鋳型」によって、基質となるCTPやATPを固定し、tRNAの末端が伸縮することで、鋳型なしでも特異的にCCA配列を結合させることができることを明らかにした。さらに我々は、古細菌Archaeglobus fulgidus由来のCCA付加酵素とプライマーとなる各反応段階のミニヘリックスtRNA(CCA, CA, Aが欠けているもの)とNTPとの複合体[mini-D(D; ディスクリミネーター), mini-DC, mini-DC+CTP, mini-DCC, mini-DCC+ATP, mini-DCCAの計6つのステージ]の結晶構造を解明し、CCA付加反応のダイナミクスを解明することに成功した。その結果、第一段階、第二段階でCTPが付加する際には、ポリメラーゼドメインが構造変化して閉じた構造をとり、プライマー末端もフリップしてCTPを受け取ることにより、酵素・プライマー・CTPのダイナミクスでNTPの基質特異性が決定されていた。これに対し、mini-DCCステージ以降はポリメラーゼドメインが一貫して閉じた構造をとっており、ポケットの静的な構造でATPを認識していることが明らかになった。さらにC末端のドメインがtRNAに特徴的なTCループを認識することで、プライマーは転移することなく、CCAの付加が終わると反応は終結してtRNAが離脱することが明らかとなった。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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