日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S2-2-4
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構造プロテオミクスの最前線
SAIL法の多様化による蛋白質構造解析
*甲斐荘 正恒
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抄録

結晶状態における蛋白質を対象とするX線解析法と比べて、より生理学的条件に近い水溶液やミセル中を動き回る蛋白質の立体構造情報をもたらす手段としてのNMR法に寄せられる期待は大きい。しかしながら、蛋白質の構造決定技術としてのNMR技術は20年にも満たない新しい技術であり、X線解析法を補完するには更なる方法論の発展が不可欠である。NMRによる蛋白質の立体構造解析は多大な労力と高額な測定装置を長時間に渡って占有する必要があるにもかかわらず、得られる立体構造精度の向上、或いは現在においても25kDa程度に留まる分子量限界という大きな壁を依然として乗り越えられない壁に発展を妨げられてきた。欧米を中心とするこれまでのNMR手法の開発は、主として多次元NMR測定・解析技術と構造決定アルゴリズムの高度化に向けられてきた。このような、分光学としてのNMR技術の発展の一方で、肝心な蛋白質試料の調製技術の重要性が見過ごされてきたために、蛋白質NMR解析手法の開発が大きく停滞している。我々は、近年におけるX線解析法の進歩が蛋白質結晶の作成技術により支えられているように、NMR法においても試料調製技術の開発が不可欠であることを長年に渡って主張してきた。平成8年度から10年間に渡りCREST課題として開発を続け、この程NMRの抱える問題点を、蛋白質試料そのものを最適化するための技術、SAIL (stereo-array isotope labeling)法の開発に成功した。SAIL法を用いれば分子量40kDaを越える高分子量蛋白質の立体構造が精密に決定でき、また人手を介さずに全自動構造解析することも可能となる [Kainosho, et al.,, Nature, 440, 52-57(2006)]。 SAIL法は、日本発の次世代世界標準NMR解析技術として、国内外からの大きな期待を背負っている。50-100kDa領域の高分子量蛋白質複合体、膜蛋白質等、NMR法の適用範囲の拡大はSAIL法の発展にとって重要な今後の開発課題として残されてはいるものの、我が国にとってはSAIL法を世界標準として発信することは国際社会に対する重大な責務であろう。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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