日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S2-2-3
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構造プロテオミクスの最前線
多剤排出トランスポーターによる薬剤認識および排出機構
*村上 聡
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抄録

院内感染や抗がん剤耐性などにみられる多剤耐性化は、化学療法に立脚する現代医療の脅威である。多剤耐性化の主因である多剤排出トランスポーターは、作用や構造の異なる多種多様な薬剤を基質として認識し、細胞のエネルギーを用いてそれらを膜を介して能動的に排出する膜蛋白質である。そのユニークな基質認識機構および、輸送機構の本質的理解を目指し、大腸菌の持つ最も強力な多剤排出トランスポーターであるAcrBおよびAcrB・基質複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果、三量体で存在するAcrBの各プロトマーはそれぞれ輸送サイクルにおける三種類の状態のうちのひとつに対応しており、異なる立体構造を持つことがわかった。それらは基質取り込み口が開いた構造(取込型)、薬剤を結合させる構造(結合型)、外膜チャネルへと続く出口が開いた構造(排出型)、である。結合型は、基質結合に適した拡張した基質結合ポケットを持つ。その内側は芳香族アミノ酸に富み疎水的で、多くの疎水性基質を主に芳香族-芳香族相互作用により認識することが分かった。異なる基質は、異なる芳香族アミノ酸の組み合わせで対応する、“マルチサイト型結合”により認識されることがわかった。一方で排出型はこのポケットが収縮しており基質に対して低親和性の状態を持つとともに、細胞外へと続く経路が開いた構造を持つ。さらに取り込み型は、細胞内へと開いた構造を持ち、基質の取り込み状態にあると考えられた。AcrB三量体に含まれる各々のプロトマーが、順番に,取込型→結合型→排出型、の順序で構造および状態を回帰的に変化させることで、基質の一方向輸送が行われるメカニズムとして説明できた。またこの構造変化を誘起させる膜貫通部分に存在する荷電性アミノ酸のスイッチ機構も見つけた。このメカニズムは6量体で機能し疑似三回対称性を持つATP合成酵素における回転触媒機構と共通する部分が多い。ATP合成酵素が物理的な回転を起こすのに対して、AcrBは回転を起こすサブユニットを持たないことから、AcrBによるこの回帰的な協調性の伝搬機構を、機能的回転機構と名付け、薬剤の能動的輸送機構として提唱した。 参考文献: Murakami.S, et al. Nature 419, 587-593 (2002) Murakami.S, et al. Nature 443, 173-179 (2006)

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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