日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S2-4-4
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プロテオミクスの新技術・質量分析法を中心に
顕微質量分析装置の開発
*小河 潔出水 秀明古橋 治原田 高宏竹下 建悟吉田 佳一瀬藤 光利
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抄録

生体組織や細胞の形態情報は顕微鏡観察によって得られるが、そのものは何で構成されているかを知ることはできない。ここで開発している顕微質量分析装置は、顕微鏡で観察した場所を“その場”で質量分析することにより、形態情報と構成分子の情報を同時に得ることを目的としている。これにより、たとえば病変部位では正常部位に比べて構成分子にどのような変化が起こっているか、また異常組織はどのような生体分子で構成されているか、といったことを知ることができる。 これを実現するため、高解像度光学顕微鏡と微小レーザー集光系をもつMALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)-DIT(Digital Ion Trap)-TOF型質量分析計を組み合わせた顕微質量分析装置を開発した。この装置では、生体試料をできるだけ生に近い状態で分析できるように、大気圧下でのイオン化法を採用している。レーザー照射径は、レーザー照射痕による評価の結果、10μm以下が得られている。この質量分析のイメージングの情報に加えて、検出した分子が“何か”を正確に同定することも重要である。DITを用いると高い精度でMSn分析を行うことができ、正確な同定が可能となる。DITでは、イオンをトラップするための高周波高電圧駆動波形を、デジタル回路技術を用いて正確に、また自在に周波数制御することで、イオンを自在に制御することができ、高プリカーサ分離能や高い解離効率が得られる。 この装置を、実生体試料に適用した。試料は、ラットの脳組織切片を用い、トリプシン消化した後マトリクス(DHB)をスプレーし、直接質量分析による測定を行った。照射径10μmのレーザーによって、高い解像度で脳内に分布するペプチドの質量分析イメージが得られた。一方、生体試料の直接イオン化分析では極めて多くのピークが出現し、単一ピークの切り出しができないことにより、ピーク同定が困難な場合がある。本装置で、このような試料でも正確なピーク同定ができるかを評価するため、マウスの脳組織試料を用いて脂質の分析を行った。脳には、多種多様の脂質を含み、ほぼ1Da間隔でピークが出現する。このようなピークにおいて、DITを用いて脂質の単一ピークのみ分離することができ、MS/MS分析により正確な同定に成功した。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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