日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-1-4
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細胞ネットワーク解析の最前線
遺伝子綱引き法による細胞のロバストネスの測定
*守屋 央朗
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抄録

細胞内の蛋白質の存在量は、遺伝子の発現の強さ(転写速度や翻訳速度)、蛋白質の安定性(分解速度)といったパラメータによって決められる。これらのパラメータはおのおのの細胞が営む生命現象をもっとも効率よく行うために最適化されていると考えられる。その一方でこれらのパラメータは遺伝子発現のノイズやpHや温度といった環境の変動(摂動)対して細胞機能を維持するためにある程度の許容範囲を持っていることが推測される。これは細胞内の複雑な分子ネットワークが作り出す、生命のシステムレベルの特性“ロバストネス(頑健性)”の一端ととらえることが出来る。私たちは生命の持つロバストネスの特性(ロバストネス・プロファイル)を知ることは、生命現象の根幹原理の理解や高性能コンピュータ細胞モデルの開発、疾患の効率よい対処法を知る上で非常に有効であると考えている。 本口演では、私たちがモデル真核細胞の出芽酵母で開発したロバストネス・プロファイルを取得する実験手法、genetic Tug-Of-War (gTOW: 遺伝子綱引き)法について解説し、ロバストネス・プロファイルを得るとはどういうことか?またロバストネス・プロファイルから生命現象についてどのようなことがわかるのかといったことについて解説する。gTOW法では遺伝学的手法により標的遺伝子のコピー数を100倍程度に上げることが出来る。このことによって、標的遺伝子が働く生命システムの遺伝子の過剰発現に対するロバストネスを測定することが出来る。これを目的の生命システムに含まれる全遺伝子で行うことによってその生命システムのロバストネス・プロファイルを得ることが出来る。実際に私たちは出芽酵母の30の細胞周期関連遺伝子についてgTOW実験を行い、出芽酵母細胞周期のロバストネス・プロファイルを得ることに成功している。このロバストネス・プロファイルは出芽酵母の細胞周期の中で遺伝子の過剰発現に対する脆弱点をあぶり出すとともに、コンピュータ細胞モデルの問題点を浮かび上がらせた。またこのロバストネス・プロファイルの考え方を発展させることで、疾患状態をより強く規定している蛋白質を見いだすことや、癌などに対するより有効な治療薬の開発につながるものと考えている。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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