日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第5回大会
セッションID: S1-2-1
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疾患・創薬マーカー探索の最前線
大規模臨床プロテオミクスに特化したバイオインフォマティクス
*桑原 秀也
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抄録

近年、マイクロアレイや質量分析などのゲノミクス・プロテオミクスの大規模な発現解析
技術とバイオインフォマティクスの急速な進歩により、個別化医療(テーラーメイド医療)
や創薬への応用をめざしたバイオマーカーの探索が隆盛である。特に質量分析法は血
清・血漿のバイオマーカー探索の切り札として期待されている。しかし、これらのゲノミ
クス・プロテオミクス解析から実用化までいたった成功例は実際には殆ど存在していな
いのが現実である。この原因の一つはバイオマーカー探索の多くが、研究の始めから
実用化に必要ないくつかの要件を考慮しないで行われているためである。
今回はバイオインフォマテッィクスの視点から、(1)バイオマーカー探索に必要なサンプ
ル数、(2)バイオマーカー探索に必要な実験精度、(3)バイオマーカーの実用化(市場化)
に必要な要件などについて、我々のシミュレーション結果を用いて解説する。

(1) バイオマーカー探索に必要なサンプル数
機械学習としてよく利用されるSVM(support vector machine)は高い汎化能力を有し、
過学習することが少ないと言われるが、複数マーカーを考慮する場合どの程度のサン
プル数が必要であるのかを述べる。さらに必要なサンプル数が得られないのであれば、
研究そのものが無為なものとなる可能性を指摘する。

(2) バイオマーカー探索に求められる実験精度
観測される値のばらつきがサンプル固有のばらつき(個人差)と計測系の精度に依存
する時、計測系のばらつきが正規分布していると仮定できるならば、サンプル固有の
ばらつきより計測系のばらつきが占める割合が大きいほど、重複実験の重要性が増す
ことを強調したい。

(3) バイオマーカーの実用化に求められる要件
バイオマーカーを利用する目的によって要件は異なるが、ここではベイズ統計と厚生経
済学の観点から診断を目的とする簡単なモデルを構築し、診断の感度と特異度及び罹
患率の関係について説明する。モデルより費用対効果の観点から罹患率が稀なほど
感度よりも特異度が重要となり、検査コストも安くする必要があることを示す。

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© 2007 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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