日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S3-5
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グライコミクスの医学への応用(糖鎖)
ヒト糖転移酵素の生産系の開発とグライコミクスへの応用
*千葉 靖典伊藤 浩美佐藤 隆成松 久
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抄録

(目的)ポストゲノム時代において、糖タンパク質の解析(グライコプロテオミクス)をどのように進めていくかは大きな課題の一つである。糖タンパク質解析を困難にしている理由として、標準品となる糖鎖・糖ペプチドが比較的入手困難なことが挙げられる。糖鎖や糖ペプチドの標準品の作製には、基質特異性が明確である糖転移酵素を利用する事が好ましいが、酵素自体が不安定で大量に生産することが難しいため、糖転移酵素を利用した糖鎖合成は難しいと考えられてきた。我々は動物細胞(HEK293T細胞)とメタノール資化性酵母(Ogataea minuta)を宿主としてヒト糖転移酵素の生産法の開発を検討した。
(方法)当センターで有するヒト糖転移酵素遺伝子はGatewayシステムを用いてライブラリー化した。膜貫通領域以降をコードする糖転移酵素の遺伝子を各細胞で発現するように遺伝子導入した。培地中に分泌される糖転移酵素をFLAGビーズや各種クロマトグラフィーを用いることで精製し、活性測定を行なうと共に、ウエスタンブロッティングにより発現量を推定した。さらに得られた糖転移酵素を利用し、糖鎖の合成や改変条件を検討した。
(結果)既知の情報と当センターで新規にクローニングした遺伝子を含め、184種類の糖鎖合成関連遺伝子をクローニングし、ライブラリー化した。II型膜タンパク質型糖転移酵素のほとんどはHEK293T細胞で可溶型酵素として発現が可能であった。FLAGタグを利用してビーズ上に固定した糖転移酵素を利用し、血液型抗原などの非還元末端側の特徴的な糖鎖構造やO-型糖鎖を有する糖ペプチドの調製等、様々な糖鎖・糖ペプチドの合成を行なった。実際に合成した糖鎖・糖ペプチドを活用することで、MSを利用した構造解析システムの開発に活用した。また一部は基板上に固定し、糖鎖チップへの応用も行なっている。
一方、酵母の発現系については、発現させたヒト糖転移酵素の半数程度でしか活性が確認されなかったため、種々の条件を検討した結果、ある酵素では数百倍の生産性の向上に成功した。これらの酵素を用い、天然からは大量調製が困難なN-型多分岐糖鎖の調製に成功した。今後これらの糖転移酵素の発現系を活用するにより、酵素法による糖鎖の大量調製と糖鎖標準品の安価な供給が期待できる。
本研究は新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)「糖鎖機能活用技術開発」プロジェクトにおいて実施したものである。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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