日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S6-2
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プロテオミクスの医学への応用(その3) 疾患メカニズム解析
質量イメージング/切片上断片化法を用いた組織切片中のタンパク質解析の現状と問題点
*中西 豊文カプリオリ M リチャード
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抄録

はじめに:イメージング・マススペクトロメトリー(IMS)は、組織切片を直接飛行時間型質量分析計にて分析し組織切片内に発現・蓄積・沈着した分子の分布・局在性及びその構造情報を得る事が新しい解析方法である。現在、世界中の研究者達が競って診断指標・病態解明に有用なバイオマーカー候補を探索している。中でも、RM.Caprioli教授のグループは神経変性疾患、各種腫瘍組織を用いIMSによるバイオマーカーの同定で世界をリードしている。  今回、RM.Caprioli教授の下に短期留学する機会を得、IMS解析の最適条件を再確認し、合わせてIMSによる組織内発現タンパク質の分布・局在性及びon-tissue断片化による組織内タンパク質の同定結果などを報告する。 方法:マウス組織切片及びインフォームド・コンセント済のヒト正常網膜・脳前頭葉(アルツハイマー病患者剖検)組織切片(12~15μm厚)を分析対象とした。マトリックスにはシナピン酸(SA)及びジヒドロ安息香酸(sDHB)を用い、噴霧法としては用手法、ImagePrep及びPortrait630の3法を用いた。添加酸性溶液にはトリフルオロ酢酸(TFA)及びギ酸(FA)を用いた。プレートにはガラス製と金被膜製の2種類を用い、断片化酵素にはトリプシンを用いた。SmartBeamを装着したAutoflexII(IMS)及びUltraflexII(IMS&MSMS)を用いた。 結果:ガラス製と金被膜製プレートでの比較では、後者が特に高質量領域おいて良好であり、検出感度としては10倍以上の差が認められた。次に、マトリックス噴霧法の検討では、用手法ではその結晶化の不均一性は致命的であり、感度・安定性・再現性にも問題があった。次に、SA単独、混合間の比較では、後者の方に高質量領域での感度の上昇が認められた。また、酸性化溶液の検討では0.5%FAが最もS/N比、イオン量共に良好であった。ヒト網膜・前頭葉及びマウス脳切片を用いたon-tissue断片化ペプチド解析では、ミエリン塩基性蛋白、アルデヒド脱水素酵素など数種類の高含有タンパク質が同定出来た。 結論:まだまだ検討の余地は有るがSA+sDHB(19/1重量比)/0.5%FA/50%アセトニトリル溶液がイオン強度、シグナル/ノイズ比、>タンパク質検出感度等を考慮すると最適と考えられた。On-tissue断片化法は、まだまだ多くの欠点も存在するが、IMSの欠点を補うタンパク質の同定法として有望であり、発展性のある前処理方法と思われた。 謝辞:本研究はバンダービルト大学医学部・質量分析研究センターとの共同研究によって行われた。此処に深謝致します。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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