日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S7-2
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プロテオミクスの薬学への応用
プロテオミクス技術による細胞内シグナル伝達系の解析
*服部 成介
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抄録

 現在のプロテオミクス技術の分解能は、微量な細胞内シグナル伝達系構成因子の解析には不十分であり、なんらかの前分画法が重要と考えられる。ヒトゲノムには518 種ものタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)が存在し、タンパク質リン酸化の重要性を示している。細胞内の現象にはそれぞれ固有のキナーゼの関与が知られ、キナーゼの基質を網羅的に解析することでその機能を明らかにすることができる。したがって、キナーゼ基質を網羅的に解析するシステムを開発することは大変重要な課題である。そこで、リン酸化タンパク質精製と2次元ゲル電気泳動を組み合わせ、効率よくキナーゼ基質を同定するシステムの構築を試みた。ERKはRasの下流で活性化され、細胞増殖制御や腫瘍発症にかかわる重要なキナーゼであり、ERKをモデルキナーゼとして基質の同定を行った。
 ERKを活性化したNIH3T3線維芽細胞およびERK活性を抑制した細胞より、それぞれリン酸化タンパク質を精製し、2次元ゲル電気泳動で解析した結果、ERK活性化細胞に特異的に認められるスポットが多数検出された。これらのスポットは細胞総抽出液を試料とした場合には検出困難であり、リン酸化タンパク質精製の有効性が示された。スポット中のタンパク質をPMF法により同定し、さらにリン酸化部位の決定、リン酸化特異的抗体の作成を行った結果、同定したタンパク質は確かにERK基質であることが示された。
 新規ERK基質のうち、細胞骨格制御因子EPLINはERKリン酸化にともないアクチン線維との相互作用が低下し、細胞運動能が高められることが示された。また核膜孔複合体タンパク質Nup50はリン酸化によりimportinβとの相互作用が低下し、ERKリン酸化による制御が示唆された。同様のシステムを用いてp38 MAPキナーゼ基質の検索も行ない、多数の基質を同定している。
 特定のキナーゼ基質をより効率的に同定するため、細胞抽出液中のリン酸化タンパク質をすべてフォスファターゼ処理により脱リン酸化し、さらに試験管内で特定の精製キナーゼによりリン酸化するシステムの開発を行った。このシステムでは細胞内キナーゼ活性化により同定されたスポットより多数の候補スポットが認められ、効率のよい同定が可能と考えられた。
 以上の結果から、研究対象因子に相応しい前分画法により分離濃縮し、プロテオミクス解析の対象とすることが重要であると考えられる。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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