日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S7-5
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プロテオミクスの薬学への応用
In Silico 創薬技術に基づく Structure-Based Drug Design の実際
*広野 修一
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抄録

 近年ヒト遺伝子の全塩基配列が解明されたことから、ゲノム情報、プロテオーム情報、蛋白質構造情報など得られる生物学的情報量が爆発的に増加し、新しい薬物標的や将来の医薬品につながるリード化合物を発見する機会が増すとともに、いろいろな疾病の治療薬となりうる種々の化合物(リガンド分子)に対する標的蛋白質群の立体構造が従来よりも比較的容易に得られるようになってきた。そのような状況において、創薬戦略も標的蛋白質の立体構造情報を有効に活用するStructure-Based Drug Design(SBDD: 標的蛋白質の立体構造に基づいた医薬分子設計)に重点が置かれ、SBDD研究は理論的・計算化学的に急速に発展し、近年の新規医薬品開発での成功例が数多く報告されてきている。 SBDDに限らず、論理的医薬品分子設計では、薬物-受容体相互作用理論(鍵と鍵穴の関係)に基づいて進められる。すなわち、受容体蛋白質には物理化学的特性を有する鍵穴(リガンド結合部位)があり、その特性に相補的な性質(立体相補性、静電相補性、疎水相補性)を有する鍵(化合物)のみが活性の扉を開けることができる(薬になる)というわけである。従って、SBDDによる医薬品開発では“鍵穴の構造に基づいて鍵をデザインする”ということになるため、研究は薬物標的蛋白質の3次元座標を得ることからスタートする。この時、いわゆる“鍵穴”(リガンド結合部位)がきちんとしたポケット状構造をとっている場合には、ルーチン的にSBDDを進めることができる。講演では、現代創薬研究の中核をなすと考えられるSBDDの一般的な流れやキーポイントを、我々が行った「ヒト酸性キチナーゼを標的にしたキチナーゼ阻害剤Argifinの論理的分子構造最適化」の事例研究1),2)を通して詳説する。
1) Hiroaki Gouda et al., " Computational analysis of the binding affinities of the natural-product cyclopentapeptides argifin and argadin to chitinase B from Serratia marcescens ", Bioorganic & Medicinal Chemistry, 16, 3565-3579 (2008)
2) Hiroaki Gouda et al., " Computer-aided rational molecular design of argifin-derivatives with increased inhibitory activity against chitinase B from Serratia marcescens ", Bioorganic & Medicinal Chemistry Letter, 19, 2630-2633 (2009)

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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