日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-28
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ポスターセッション
癌の染色体不安定性のプロテオーム解析 ~lamin B2の発現低下による染色体不安定性の誘導~
*久家 貴寿聶 華佐藤 守松下 一之前島 一博野村 文夫朝長 毅
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抄録

 癌細胞は染色体の構造異常が起こりやすい状態(染色体不安定性)にあり、その不安定な状態を維持しながら増殖し続けられるという正常細胞にはない特徴を持つ。また、染色体不安定性は癌の悪性度や抗癌剤抵抗性に寄与するとも言われており、その原因やメカニズムを理解する事は、癌の新しい診断・治療法の開発に結びつくと思われる。染色体不安定性の機序として、細胞分裂時における姉妹染色体分配を保証するメカニズムの破綻が考えられているが、まだ詳細なメカニズムは明らかになっていない。我々はプロテオーム解析技術を用いて、染色体不安定性の新規メカニズムの解明を目指し研究を行っている。  これまでに、染色体不安定性を示す大腸癌培養細胞株(CIN+)と示さない細胞株(CIN-)の核タンパク質を用いた2D-DIGE解析から、核膜蛋白質の1つであるlamin B2の発現がCIN+細胞株で低下している事を見出している。さらに、CIN-細胞のlamin B2をRNAiでノックダウンする事で染色体異数性、染色体不均等分配およびM期遅延が誘導される事、その際に紡錘体の形成異常が起きている事を示してきた。今回我々は、CIN+細胞にlamin B2を強発現させる事で染色体の安定性を改善する事ができるのかどうかを検討した。CIN+細胞の特徴の一つとして細胞間で染色体数が不均一である事が挙げられるので、FISH(fluorescence in situ hybridization)法でlamin B2強発現細胞の染色体を調べた結果、lamin B2の強発現により染色体の均一性の改善が見られた。次に、Histone-H2Bを用いて染色体分配を生細胞観察したところ、lamin B2の強発現により染色体不均等分配が抑制され、M期の進行が速やかになる事が示された。さらに、mCherry-α-tubulinを用いて紡錘体形成を生細胞観察した結果、紡錘体形成異常の発生頻度がlamin B2の強発現により減少する事が示された。  これまでの我々の研究から、lamin B2の発現低下は紡錘体形成異常を介した染色体不安定性を誘導する事、およびlamin B2を強発現する事で染色体の安定性が改善される事が示唆された。lamin B2の発現低下は染色体不安定性のバイオマーカーとして有用であり、lamin B2の発現を高い状態に維持する事は癌の悪性化や抗癌剤抵抗性化を防ぐ手段になる可能性がある。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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