日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S1-5
会議情報

プロテオミクスの医学への応用(その1) マーカー探索(組織)
胆道癌ホルマリン固定パラフィン包埋組織からのディスカバリープロテオミクス~外科医として摘出した組織を臨床医の観点で自ら解析する~
*小野川 徹前田 晋平岡上 能斗竜森川 孝則高舘 達之前田 めぐみ竹村 太郎三上 紗弥香遠藤 洋子山田 誠子西山 隆太郎箕輪 貴司花方 信孝板東 泰彦碓井 史彦西村 俊秀力山 敏樹片寄 友江川 新一海野 倫明
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抄録

 胆道癌は症状が出現した時点で進行癌であることが多く、現在外科的切除以外に根治治療が期待できる治療法がない。部位別がん死亡数では国内6番目に位置し、死亡/罹患比をみてもこの30年間で治療成績の大きな改善はない。それ故、胆道癌の危険因子や前癌病変を見いだすことにより早期発見を行うことは極めて重要である。
 今日腫瘍マーカーとして測定される CA19-9 や CEA は、それぞれ胆道癌患者の50~79%、40~70%で上昇するが、感度・特異度は鋭敏ではなく、その他のDUPAN-2・CA125・CA242・IL-6等も臨床的有用性は明らかではないことから、胆道癌特異的腫瘍マーカーは存在しないと言って良い。また、血液生化学データや画像診断などを組み合わせて診断能は向上するが、早期診断のための系統だったアルゴリズムはなく、予後に影響する因子についても、切除断端・剥離面の癌遺残・リンパ節転移・神経周囲浸潤等、治癒切除であったか否かが重要とされるが、その症例数の少なさや外科手術術式の多様性から、これまで高いエビデンスレベルのデータは殆どない。
 当科は肝胆膵外科治療のハイボリュームセンターとして機能しており、手術件数及び手術成績は全国でも有数である。我々は、臨床情報がデータベース化された膨大な当科専門疾患手術症例を対象に、日々の診療の問題に直面している臨床医の観点から、早期診断、将来の疾病への罹患、今後の病態の変動・予後、治療への反応性予測等、肝胆膵疾患診療に貢献する新規バイオマーカー蛋白質を探索することを目的として、独立行政法人物質・材料研究機構ナノテクノロジー融合センター共同研究型課題として申請し、本研究を開始した。
 1965~2008.10の期間で、当科における胆道癌切除症例437例のうち、早期発見が困難で予後不良である肝外胆管癌282例に絞り、さらに、1:画像診断の進歩と治療成績の安定化が得られた1998年以降の症例、2:臨床情報や予後情報が明らかで、3:術前化学療法・放射線療法施行症例、在院死亡例を除く153例(stage I:II:III:IV=7:37:53:56例)を対象とした。また、非癌部として膵頭部癌(膵頭十二指腸切除術)の胆管上皮とした。
 「胆道癌に発現し、進行すると高発現する蛋白質」の抽出を目的として、過去の病理所見のみならず、ダイゼクト用切片と連続する HE検鏡による専門病理医との再検討にて目的とする細胞特異的ダイゼクションを行い、早期(stage I):6例、進行(stage IV):8例・非癌部:6例の各群別でそれぞれ1065種類・1003種類・944種類の蛋白質を同定した。また、群特異的な発現蛋白質の同定にスペクトラル・カウント法を用いた比較定量及び統計検定を実施して、stagingにて変動する可能性がある149種類のバイオマーカー候補蛋白質を見出した。
  消化器癌医療は過去における膨大な科学データに基づき発展を遂げてきたが、進行症例では、医療の限界を感じざるを得ない。癌研究は、基礎研究から臨床研究を経て医療現場における普及、普遍化へと繋がっていくことが標準的なプロセスであるが、その流れは一方向ではなく、癌の医療現場より基礎研究へとの流れがあることも重要と考えられる。本研究は、外科医として自ら得た臨床検体で、臨床医の観点から、最先端の技術をもって基礎的解析を目指すものであり、胆道悪性腫瘍の効率的診断・治療を目指したトランスレーショナル研究として具体性と可能性の高さを持っているといえる。さらに、本研究成果が即座に臨床にフィードバックされるという特色を有しており、多くのがん患者に福音がもたらされることからも、その全容解明は急務である。
  今後症例を集積し、Geneontology解析を行うことで、候補の中で「血液や胆汁に現れる可能性がある」漏洩・分泌蛋白質などに絞り込み、術前に採取できる血液や胆汁を用いて選択的に検出・定量して候補マーカーを検証する新規研究戦略や、従来の形態学を超えた分子病理学的診断への応用、候補マーカーをターゲットとした分子標的治療や分子イメージング技術開発等、産業や臨床医学上のイノベーションや肝胆膵診療のブレイクスルーにつながるような成果を生み出したいと考えており、今回、臨床的意義をふまえた現在の研究進捗状況を報告する。
 謝辞 東京医科大学西村・加藤らによる肺癌ホルマリン固定パラフィン組織切片からバイオマーカー探索技術の報告が当科での研究開始の契機となったこと、また、本研究遂行にあたり共同研究者らによる技術支援・指導をいただいたことに深く感謝申し上げる。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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