日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S1-6
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プロテオミクスの医学への応用(その1) マーカー探索(組織)
ラット脳のパラフィン包埋切片を用いた神経新生制御分子の探索の試み
*榎本 篤山川 良典高橋 雅英
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抄録

これまで組織のプロテオーム解析は検体の保存法やタンパク質の回収法などに専門的な知識と技術を要することが多く、プロテオーム解析を専門としない他分野の研究者には比較的敷居の高い手法であった。しかしながら今回私達が試みた高速レーザーマイクロダイセクションと新規のタンパク質抽出技術、さらに高感度質量分析計を組み合わせた技術は、手元にパラフィン包埋組織さえあれば難しい知識がなくても容易にプロテオーム解析が可能となる画期的な技術である。今回は本技術を、神経科学領域でホットな分野である「神経新生の制御分子の同定」というテーマに応用したので紹介したい。  従来、成体(大人)の脳では神経細胞は再生されないと考えられてきたが、近年の研究により海馬の歯状回とRMS(rostral migratory stream)と呼ばれる領域では神経細胞が新生され続けていることが明らかにされている。本現象は「成体脳におけるニューロン新生」あるいは「adult neurogenesis」と呼称され、再生医学という観点からも各方面の研究者から注目されている。本研究では海馬歯状回とRMSをレーザーマイクロダイセクションで単離し、上記技術を用いたプロテオーム解析によって神経新生の制御因子の探索を試みたので紹介したい。得られた膨大な質量分析データの中から極めて興味深い分子群が検出されており、神経新生に特異的な制御分子同定への新たな知見が提供されつつある。一方で、実際に実験を行ってみると、質量分析データの解釈の方法、候補分子に対する検証の方法など様々な問題点や課題も浮上している。しかしながら本技術はこれらの問題点を補って余りある可能性を有しており、今後、臨床から基礎まで幅広い研究分野で、様々な病理検体や組織検体で応用されることが期待される技術である。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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