日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: S2-3
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タンパク質研究から医薬品開発への道
新薬開発のボトルネック解消を目指した解収束型プロテオミクスの新展開:  高感度多検体同時普遍的タンパク質絶対定量法を用いたファーマコプロテオミクス
*寺崎 哲也川上 裕貴勝倉 由樹上家 潤一大槻 純男
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抄録

実験動物で効果が確認された化合物をヒトに投与しても期待した有効性が確認されることは難しく、ヒト臨床試験の成功確率は11%と低い。実験動物を用いた非臨床試験とヒト臨床試験の間の大きなギャップをどのような研究戦略で埋めるのかは、ヒトゲノム解読以前からの長年の課題である。
 輸送担体、受容体、酵素など重要機能を担う蛋白質群の役割を明らかにすることは創薬科学や蛋白質科学の重要な課題である。重要機能蛋白質群は微量発現分子であり、従来の手法では検出が困難であった。私達は3連四重極型質量分析計を用いて、機能蛋白質群の酵素消化ペプチド断片を測定対象とした高感度かつ特異的な絶対定量法を開発した。さらに、質量分析計の検出に適したペプチド断片をアミノ酸の配列情報に基づいてin silicoで選択する方法を開発し、配列情報のみから迅速に高感度絶対定量法を構築可能なシステムを確立した。その結果、あらゆる蛋白質の発現量の絶対定量法の開発が可能になった。この手法によって、微量蛋白質の絶対定量が可能になり、重要機能蛋白質群を標的とした絶対定量プロテオミクス解析(Targeted Absolute Proteomics)が実現した。この方法を用いてマウスやヒト組織に発現するP-gp, BCRP, MRP4などの輸送担体タンパク質の絶対発現量を測定し、各々の輸送担体遺伝子導入細胞を用いて薬物の輸送活性を測定し、輸送担体の固有活性を用いたin vivoを再構築することが可能になった。この研究戦略は、動物種差だけでなく、新生児、小児、老年、各種中枢疾患における薬物動態の絶対値予測へ応用可能である。
 今日、遺伝子情報に基づいたPharmacogenomics (PGx)研究が盛んである。私達の開発したタンパク質の絶対定量法は、あらゆる動物種のあらゆるタンパク質に応用できることから、輸送担体だけでなく、薬物の効果や毒性の鍵を握る酵素、受容体、チャネルなどの定量も可能である。タンパク質の絶対発現量情報とその機能情報を統合するPharmacoproteomics (PPx)という新学問領域から生まれる成果が、創薬研究の変革をもたらすことを期待する。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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