主催: 日本ヒトプロテオーム機構
リン酸化は最もよく用いられている翻訳後修飾である.様々なシグナル伝達の調節を始めとして幅広く,かつ,重要な制御系として機能している.リン酸化の解析には放射性同位元素によるラベル,質量分析法,リン酸化抗体などの方法が用いられているが,in vivoのリン酸化状態を定量的に解析するのは簡単ではない.手軽な方法としてリン酸化抗体が頻繁に用いられているが,リン酸化部位を同定して,リン酸化抗体を作成しなければならないし,リン酸化を認識できるにしても,どの程度リン酸化されているかという定量的なデータを出すには手間がかかる.最近,フォスタグ電気泳動というリン酸化されたタンパク種の泳動上の移動度が遅れるのを利用して,リン酸化を検出する方法が開発,紹介されていた.我々はこの方法を利用して,サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)の活性化サブユニットp35とp39のリン酸化について解析した.Cdk5は神経細胞に高発現するプロテインキナーゼであり,脳形成期の神経細胞の移動や神経突起の伸長,シナプス可塑性,神経細胞死などに関わる多機能なキナーゼである.Cdk5自身は活性を示さないが,p35やp39との結合によって活性化される.p35やp39の量はプロテアソームの分解によって調節されるが,その分解はp35のリン酸化によって制御されている.p35のリン酸化は2カ所(Ser8とThr138)が知られている.p39についてはリン酸化があることは判っているが部位は同定されてはいない.p35のリン酸化されないAla変異体(S8A,T138A,S8A/T138A)を用いてリン酸化と移動度を関連づけた後,神経細胞内および脳におけるリン酸化状態を調べた.神経細胞内では主にSer8がリン酸化されており,脳内では新規なリン酸化部位があると思われるバンドが検出できた.フォスタグ電気泳動とAla変異体を用いて,新規なリン酸化部位Ser91を同定した.この方法は目的とするタンパク質のリン酸化マップさえ作成すれば,in vivoにおけるリン酸化状態を定量的に解析するに優れた方法であることが示された.