2021 年 1 巻 3 号 p. 147-152
20世紀後半よりウイルスが発癌に寄与することが次々と明らかにされてきた。頭頸部は多くの病原体が侵入する経路であり,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が加療する疾患においてもヒトパピローマウイルスやEpstein Barrウイルス(EBウイルス)が中咽頭癌や上咽頭癌の発生や進行に関わっている。鼻性NK/T細胞リンパ腫は頭頸部を主座とする致死的な疾患であり,病理学的診断が非常に困難なことで知られる。1990年にEBウイルスが本リンパ腫細胞に発現することが明らかとなり,EBウイルス関連ゲノム(EB virus-encoded small RNAs:EBER)のIn situ hybridizationによる検出が本疾患の診断に役立ってきた。さらに血中のEBウイルスDNA量が病勢に応じたマーカーとして臨床応用され,ウイルス発癌の特性が実臨床にも生かされてきたと言える。近年,EBウイルス由来タンパクであるLMP1が本疾患の病態に関わるメカニズムの解明に加え,EBウイルス由来タンパクを治療標的としたペプチドワクチンの開発が進んできた。本稿では,EBウイルスを中心とした本疾患の病態解明および本疾患を取り巻く免疫微小環境,今後の治療戦略について概説する。