日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
症例報告
副鼻腔炎から波及した緑膿菌を起炎菌とする眼窩先端症候群の1例
坪倉 杏奈塩野 理金子 光裕福井 健太鬼島 菜摘青山 準山本 学慧丹羽 一友折舘 伸彦
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2023 年 3 巻 2 号 p. 63-68

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抄録

鼻性眼窩内合併症は重篤な後遺症を引き起こす危険性があり,適切な診断と治療が必要である。今回,副鼻腔炎から波及した緑膿菌を起因菌とする眼窩先端症候群の1例を経験したので報告する。症例は82歳男,頑固な左頬部,側頭部痛に対する精査加療目的に紹介受診した。既往歴として糖尿病,両側上顎洞根本術後,陳旧性心筋梗塞があり,インスリン療法,抗凝固療法中であった。鼻内所見,副鼻腔CTから副鼻腔炎に伴う上顎神経痛と診断し,神経障害性疼痛治療薬を処方した。初診1ヵ月後に左視力低下,眼球運動障害,眼瞼下垂が出現したため再診となった。副鼻腔CTで左蝶形骨洞の粘膜腫脹と骨破壊,眼窩先端から視神経管,海綿静脈洞の軟部組織陰影濃度の上昇を認めた。診断と治療を兼ねた内視鏡下鼻内副鼻腔手術,抗菌薬投与を行う方針とし入院となった。抗凝固薬をヘパリンに置換し入院10日目に手術を施行,蝶形骨洞粘膜,視神経管内が壊死状であった。術後5日目に対側視力低下を訴え翌日に光覚弁となった。眼瞼下垂,眼球運動障害は認めなかった。病理学的検査,細菌学的検査により緑膿菌による視神経炎と診断した。左視神経炎が視交叉におよび右視神経炎を生じたと考えられた。緑膿菌による眼窩先端症候群の報告は稀であるが,組織の壊死により重篤な機能障害を生じることがある。画像所見が軽症でも症状が強い場合,免疫不全状態,副鼻腔術後などの症例では,稀な病態が含まれることがあり注意が必要である。

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© 2023 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
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