2023 年 3 巻 3 号 p. 79-87
上気道感染症を専門とする耳鼻咽喉科医にとって,局所エアロゾル療法は重要な治療手技である。当院では2008年の新規開設時からエアロゾル療法の環境整備を重視しており,患者のプライバシー配慮と院内感染対策を目的とした個別化治療ブース,余剰エアロゾルによる環境汚染対策としての排気ダクトシステムをそれぞれ設置している。また「急性鼻副鼻腔炎に対するネブライザー療法の手引き(2016年版)」を遵守した治療機器および薬液の管理による感染対策を行っており,さらにエアロゾル噴霧量の最適化実験に基づいた適正噴霧設定を実施している。一方,2020年に始まったCOVID-19の流行いわゆるコロナ禍により,同年3月から7月はエアロゾル療法を休止せざるを得なかった。しかし従来の感染対策に加えて逆流防止システムの新規導入,発熱外来でのCOVID-19初期診断を行うことで,エアロゾル療法の安全性を確保しつつ治療を再開することができた。
また効果的なエアロゾル療法を行うためには,適切な診断学による適応症例の選択が必要であり,そのためには鼻内視鏡やCTによる画像診断が重要である。さらに嗅覚障害,頭痛,集中力低下などのCOVID-19罹患後症状では鼻副鼻腔炎が原因である例を多く経験しており,これらの症例を正しく診断してエアロゾル療法を施行することで高い治療効果と新たな症例獲得が期待できる。治療環境の整備と診断学の充実により,コロナ禍でも安全かつ効果的なエアロゾル療法を実践可能である。