2023 年 3 巻 4 号 p. 155-161
近年スギ花粉症は有病率が上昇しており,本邦における国民病とも言われている。近年の報告から山梨県はスギ・ヒノキに対する特異的IgE抗体の陽性率が全国で最も高く,有病率も経年の疫学調査において全国1位であった。有病率上昇を引き起こした原因の大きな部分を占めるのが花粉抗原の増加とされ,山梨県では1998年から独自にダーラム型花粉採集器による県内複数地域での測定を開始し現在まで継続している。1998年から2023年までの25年間のスギ・ヒノキ花粉飛散量の測定データを基に地域差と年次推移の比較を行い,近傍の気象台の観測データを参考にして気象条件との相関についても検討を行った。
花粉飛散量は花粉源からの距離を反映した地域差が認められた。スギ花粉は山間部・市街部どちらにおいても増加傾向であり,増加率に差は認められなかった。ヒノキ花粉は地域により増加率に差がみられ,花粉源から離れた地域では減少傾向も認められた。全観測点でスギの花粉飛散量は前年7月の平均気温・日照時間との正の相関があり,ヒノキは加えて前年11月12月と飛散直前の日照時間にも正の相関を認める観測点があった。
スギとヒノキの花粉量の推移については現在の齢級面積の差が影響していると考えられ,今後スギだけでなくヒノキ花粉量も全域で増加に転じる可能性がある。また,花粉形成過程の違いからヒノキ花粉量が気象条件に影響を受ける時期についてもさらに検討が必要と考えられた。