耳鼻と臨床
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原著
Pneumoparotid について
井野 千代徳多田 直樹南 豊彦井野 素子田邉 正博
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2015 年 61 巻 5 号 p. 155-169

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抄録
当科で経験した Pneumoparotid の確実症例 8 例と疑い症例 4 例、診断に苦慮した症例 1 例を報告し、今日まで内外で報告されている Pneumoparotid 症例と合わせて確実症例 36 例に関する特徴を論じた。報告例の年齢分布では 20 歳未満の症例に集中するがすべての年代に分布していた。報告例について原因別に分類した。結果、原因が自己にある症例群が圧倒的に多く、その中で咳など身体症状に関連する行為の中で発症する例は 20%、身体症状に関連なく口を膨らましたり耳下腺を腫らそうとする意図がわずかでも認められる例は 80%であった。後者に属する患者はストレスを背景に発症する症例であり、そのストレスを Munchausen 症候群、Maladaptation と習癖異常とに分けて検討した。結果、Munchausen 症候群は 20.8%で10 歳前後の症例に多く、Maladaptation は 45.8%で 10 歳以上 20 歳未満に多く、そして習癖異常は 33.3%で成人に多く認められた。Munchausen 症候群は両側に、習癖異常は片側で Maladaptation は両側、片側が同等であった。 Pneumoparotid は診断がつくまで長期を要することが多く、診断前の病名は反復性耳下腺炎を中心とした細菌感染症、Mumps が多かった。診断に際しては、Mumps は 1 回のみ感染、反復性耳下腺炎の多くは 4 歳以下で初発し10 歳以上での発症はまれであることを明記しなくてはいけない。本症に特徴的な所見は捻髪感と泡沫状の唾液であるが、そのどちらも確認されない症例が 1/3 であることも承知しておく必要がある。それを補い得るものは詳細かつ慎重な問診である。本症の疑いがあればまず CT を、さらに必要であれば耳下腺造影を行うべきである。Pneumoparotid は極めてまれな疾患とされているが、その実態は筆者らはまれならず遭遇する疾患と考えている。本疾患を見過ごさないために最も重要なことは本疾患を常に念頭に置くことである。過誤することは「心の叫び」を聞き漏らすこととなり心理的援助の機会を奪うことになる。
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© 2015 耳鼻と臨床会
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