耳鼻と臨床
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症例報告
両側顎下腺萎縮が診断の端緒となったシェーグレン症候群の 2 例
井野 千代徳大津 和弥花田 巨志井野 素子田邉 正博
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2020 年 66 巻 5 号 p. 144-153

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抄録

CT 画像上で顎下腺が萎縮・消失していることを確認することで診断・治療が進んだ 2 例を報告した。1 例目は 79 歳男性で深頸部膿瘍の症例である。熱発が無く、CRP は陰性、白血球数の増加も認めず不可解な経過であったが、頸部 CT で両側顎下腺の萎縮・消失を確認することでシェーグレン症候群(SS)を疑った。膠原病では、ある種のサイトカインの影響で炎症があっても CRP などの通常の炎症指標に反映されないことがあることより、このような結果になったのではないかと思われた。経過中の検査で潜在性シェーグレン症候群(Subclinical sjoegren 症候群、SCSS)と診断された。2 例目は 83 歳女性で心不全を持つ症例であり、慢性心不全の増悪があり、利尿剤を投与されたが改善せず、さらに悪化したため当院内科に入院した。画像診断で誤嚥性肺炎が疑われ、食事中に喉頭周囲でゴロ音が聴取されることより喉頭周囲の観察と嚥下評価を兼ねて当科に紹介された。口腔・咽頭粘膜の高度の乾燥と内科で撮影された CT で顎下腺の萎縮を確認できたことより SS を疑うことで、症状の理解が進んだ。嚥下機能評価では障害は軽度と判定されたことより口腔・咽頭の粘膜の乾燥が嚥下障害の原因と推察した。患者は慢性心不全の増悪で利尿剤の投与を受けてさらに体調の悪化があり、同薬剤を中止することで症状の改善があったことより SS で粘膜乾燥が存在する状態に薬剤負荷でその増悪を来して嚥下障害・誤嚥性肺炎に至ったものと推測した。入院中の検査で SS と確診された。耳鼻咽喉科頭頸部外科では必然的に頸部 CT を眼にする機会が多い。そこで顎下腺の萎縮に気付くことで病態の理解が進み、診断・治療の展望が開けることがある。口内乾燥の有無にかかわらず、常に意識を持って読影に臨む必要性を強調した。当科での検討では SS の約 70%が顎下腺の高度萎縮以上であったことも併せて報告した。

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