鼻脳型ムコール症は、頭蓋や眼窩に進展する予後不良な疾患である。今回われわれは、糖尿病性腎症で維持透析中に発症した症例、急性リンパ性白血病の化学療法中に発症した症例を経験した。いずれも、不幸な転機をたどっており、文献的考察を加えて報告する。症例 1 は、73 歳、男性。糖尿病性腎症による維持透析中に気腫性膀胱炎のため入院した。抗生剤投与中に鼻脳型ムコール症を発症し、脳梗塞、意識障害となり誤嚥性肺炎を併発し死亡した。症例 2 は 56 歳、女性。急性骨髄性白血病加療目的に入院した。化学療法に伴う骨髄抑制期の発熱性好中球減少症に対して、抗生剤、抗真菌剤投与中に左眼瞼腫脹を生じ、鼻脳型ムコール症を発症した。ブレイクスルー感染症と考えられ、アムホテリシン B を投与したが左眼は失明した。手術とアムホテリシン B 投与で小康状態となったが、白血病の悪化により死亡した。本疾患はアムホテリシン B の早期治療と外科的治療が必要であると考えられた。