29 歳以下の唾液過多を主訴とする症例(若年者唾液過多症例:J 過多症例)を対象として患者の心理的な背景とその発症機序について論じた。心理検査、アンケートの結果よりJ 過多症例の多くは背景に社会不安を持っていることが分かった。J 過多症と J 口渇症との比較検討と口渇者 1,517 例の分析より、唾液量は病悩期間に関係することが分かった。心気的なとらわれや注意の固着は単に機能障害のレベルにとどまらず、さらに器質的な変化へと進展することがあるとされている。社会不安があり、些細なことで唾液を意識するようになり長く唾液に執着することで実際に唾液過多に至ると考え、J 過多症の発症機序は「まず唾液過多ありき」ではなく「まず社会不安ありき」ととらえている。社会不安を持つひとは扁桃体の活動が亢進しているとされている。扁桃体の扁桃体中心核(CeA)は直接・間接に上唾液核に投射するほか、恐怖情動学習などの「可塑性病」の成立に関与するとされる。長く執拗に唾液過多を意識することで CeA で可塑性が成立し、絶えず上唾液核を刺激するのかもしれない。その CeA のニューロンはまた社会行動および個体間距離を制御する部位でもあり社会不安症との関係が指摘されている。社会不安傾向を背景に有する J 過多症は扁桃体と密接な関係を有しているものといえる。本症の治療は、容易ではないが、唾液過多を改善することではなく、過多を過剰に意識するとらえ方を見直すことにあると考えている。J 過多症の発症は、まずはとらわれ・執着が先行し遅れて実際の唾液過多に至り、改善もとらわれ・執着の緩みが先行し実際の唾液量は遅れて正常化すると理解した。