日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
耳鼻咽喉科臨床の進歩
—喉頭・気管の再生医療—
大森 孝一中村 達雄多田 靖宏野本 幸男鈴木 輝久金丸 眞一安里 亮山下 勝岡野 渉
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2009 年 112 巻 3 号 p. 104-109

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抄録

気道は呼吸, 嚥下, 発声, 構音という生命維持や社会生活を送る上で必須の機能を持つ. 癌や外傷などで気道の組織が侵された場合, これらを切除した後に機能障害なく再建することは難しい.
臓器再生には足場, 細胞, 成長因子が必要とされている. これらを組み合わせて臓器を再生させようとする研究が数多く展開されているが, 臨床に到達した分野はまだ少ない. 気管については, Tissue Engineeringの概念を提唱したLanger, Vacantiが, 動物実験で体外での気管様の管腔組織再生を報告したが, 体内に移植すると吸収されるため臨床応用に用いるのは難しい.
一方, われわれは, 生体内で組織を再生させるin situ Tissue Engineeringの概念に基づいて, 生体内で自己の組織再生を誘導する人工材料 (ポリプロピレンメッシュ+コラーゲンスポンジ) を開発した. 犬を用いて人工材料を足場として移植し, 気管, 輪状軟骨弓部などの組織再生に成功した. 電子顕微鏡での観察で内腔面に線毛上皮の再生を認め, 機械的圧縮試験で再生組織は正常組織と同等の支持力を示した. 最長5年の観察期間で狭窄などの合併症を認めず良好な組織再生が得られ, 安全性が確認された.
2002年より, 世界に先駆けて喉頭・気管の再生医療のヒトへの応用を開始した. 頸部気管, 輪状軟骨の欠損例を対象として, 甲状腺癌気管浸潤の即時再建3例, 喉頭・気管狭窄の気道再建5例に行い, 9カ月から最長4年の観察期間でほぼ経過良好である. 再建時には気管孔を同時に閉鎖し早期に日常生活に復帰できた. 喉頭・気管の再生医療は部分欠損に対してではあるが臨床応用段階に到達しており, 日本発の治療技術といえる. 今後の課題は, より広い範囲の欠損例への対応, 上皮化の加速や声帯隆起再生のための新規技術開発であり, 線維芽細胞や脂肪組織由来幹細胞を用いたハイブリッド型人工材料の開発状況を紹介する.

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© 2009 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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