抄録
嚥下障害はさまざまな原因によって生じ, 小児から高齢者まであらゆる年齢層におよび, その病態も多岐にわたる. 嚥下障害患者においては経口摂取が制限されるばかりでなく, 誤嚥による嚥下性肺炎の危険性に直面することにもなり, 客観的な病態診断と適切な治療が必要である. 嚥下障害の病態診断では嚥下内視鏡検査が必須であり, われわれは簡便かつ客観的に嚥下機能を評価することを目的として, スコア評価法を提唱した. これにより嚥下障害の様式, 重症度, 経口摂取の可否の判断などを行うことができる. しかし, 咽頭期の喉頭挙上や食道入口部の開大性を評価するためには嚥下造影検査も考慮する必要がある. 治療においては, 口腔管理やリハビリテーションが基本となる. 嚥下障害が高度の場合や意識レベルが低下している場合には, 外科的治療により経口摂取の回復や誤嚥の防止を図ることができる. 薬物治療にはACE阻害薬やカプサイシンなどによる嚥下反射や咳反射の改善, ボツリヌス毒素による輪状咽頭筋絞扼の解除などがあるが, 更なるエビデンスの蓄積が求められる. 嚥下障害の診断および治療における耳鼻咽喉科医の役割の重要性を強調したい.