日本耳鼻咽喉科学会会報
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115 巻, 8 号
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総説
  • 本田 美和子
    2012 年 115 巻 8 号 p. 759-766
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    HIV感染症は現在においてもまだ完全な治癒の見込めないウイルス感染症であるが, 抗HIV治療薬の開発により, 患者の予後は劇的に改善している. しかしその一方で, 患者・医療従事者双方が疾患の存在について把握していることは少なく, 過去にHIV感染と関連のある症状・疾患の既往があるにもかかわらず見落とされていることが多い. このため, HIV感染が判明したときには, すでに免疫能が著しく低下して日和見感染などを合併した「いきなりエイズ」であることも多い. 本稿では, HIV感染症の機序, HIV抗体検査を行うタイミング, 抗HIV治療の現況, 現在大きな問題となっている長期的な合併症・副作用などについて, 特に耳鼻科領域の症状・疾患に関して詳述する.
  • 兵頭 政光
    2012 年 115 巻 8 号 p. 767-772
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    嚥下障害はさまざまな原因によって生じ, 小児から高齢者まであらゆる年齢層におよび, その病態も多岐にわたる. 嚥下障害患者においては経口摂取が制限されるばかりでなく, 誤嚥による嚥下性肺炎の危険性に直面することにもなり, 客観的な病態診断と適切な治療が必要である. 嚥下障害の病態診断では嚥下内視鏡検査が必須であり, われわれは簡便かつ客観的に嚥下機能を評価することを目的として, スコア評価法を提唱した. これにより嚥下障害の様式, 重症度, 経口摂取の可否の判断などを行うことができる. しかし, 咽頭期の喉頭挙上や食道入口部の開大性を評価するためには嚥下造影検査も考慮する必要がある. 治療においては, 口腔管理やリハビリテーションが基本となる. 嚥下障害が高度の場合や意識レベルが低下している場合には, 外科的治療により経口摂取の回復や誤嚥の防止を図ることができる. 薬物治療にはACE阻害薬やカプサイシンなどによる嚥下反射や咳反射の改善, ボツリヌス毒素による輪状咽頭筋絞扼の解除などがあるが, 更なるエビデンスの蓄積が求められる. 嚥下障害の診断および治療における耳鼻咽喉科医の役割の重要性を強調したい.
原著
  • 藤井 良一, 今西 順久, 冨田 俊樹, 坂本 耕二, 重冨 征爾, 羽生 昇, 大塚 邦憲, 佐藤 陽一郎, 小澤 宏之, 山下 拓, 藤 ...
    2012 年 115 巻 8 号 p. 773-782
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    目的と方法: 当院における上咽頭癌の治療成績の評価と予後因子の解析を目的として, 1997年4月から2006年3月までの9年間に当院で一次治療を行った32症例を対象としてretrospectiveに検討した. 生存率に影響する因子として年齢, 性別, 組織分類, 亜部位, TN分類, 病期分類, 放射線照射方法, 照射中断の有無, 化学療法内容に注目して生存分析を行った.
    結果: 全症例の5年疾患特異的生存率 (CSS) 43.4%, 5年無病生存率 (DFS) 34.8%であり, III/IV期症例では5年CSS34.5%, 5年DFS29.8%であった. Cox比例ハザードモデルによる多変量解析の結果, 全症例のCSSでは年齢 (≥61 vs ≤60, リスク比 (RR)=5.717, p=0.006), T分類 (3/4 vs 1/2, RR=6.957, p=0.004), プラチナ製剤の有無 (無vs有, RR=3.911, p=0.012) の3因子が, DFSではT分類 (3/4 vs 1/2, RR=3.499, p=0.019), プラチナ製剤の有無 (無vs有, RR=2.947, p=0.028) の2因子が各々における独立した予後因子であった. III/IV期症例に限定した同様の検討では, プラチナ製剤の有無のみがCSS (RR=4.503, p=0.023) およびDFS (RR=4.218, p=0.014) における独立した予後因子であった. なおIII/IV期症例において導入化学療法 (NAC) 施行群は非施行群に比べ単変量解析ではCSS, DFSともに良好であった (p=0.066/p=0.025) が, 多変量解析では有意差を認めなかった.
    結論: 上咽頭癌治療におけるプラチナ製剤併用の優位性が改めて裏付けられた. 一方, 化学放射線療法においてドセタキセル単剤併用はプラチナ製剤併用と同等の効果は得られなかった. また進行期上咽頭癌に対してNACとしてのDCF (Docetaxel, Cisplatin, 5-FU) 療法が有用である可能性が示唆された.
  • 井口 広義, 岡部 宇彦, 高山 雅裕, 和田 匡史, 八谷 和孝, 松下 直樹, 山根 英雄
    2012 年 115 巻 8 号 p. 783-786
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌治療後に単発性舌骨転移を来した1例を報告する. 症例は81歳男性で, 1カ月来の有痛性前頸部腫瘤と嚥下時痛を主訴に当科を受診した. 既往歴として肝細胞癌に対して, 複数回肝動脈塞栓術を受けている. 舌骨体部左側に有痛性腫瘤を触知し, 穿刺吸引細胞診にて低分化癌の診断を得た. CTにて舌骨の破壊性変化を伴った腫瘤形成が認められ, PETにてSUV3.8の高集積を認めたことから, 肝細胞癌の舌骨転移を疑った. 全身麻酔下に腫瘤を全摘出し, 病理組織検査にて肝細胞癌の舌骨転移と診断した. 術後, 嚥下時痛は消失した. 肝細胞癌の骨転移症例においても, 比較的低侵襲で対応可能な場合は, 症状緩和のための手術療法の選択も有効と考えられた.
  • 畑中 章生, 鎌田 知子, 本田 圭司, 田崎 彰久, 岸根 有美, 川島 慶之
    2012 年 115 巻 8 号 p. 787-790
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    再感染と考えられたムンプスウイルス感染症の3症例を経験した. 症例は32歳女性と5歳女児の親子, 33歳男性であった. いずれの症例も片側の耳下腺腫脹を来して当科を初診した. 全症例ともに家庭内にムンプス症例が発生していたことと, 初診時の血清ムンプスIgG抗体が高値であったことから, ムンプス再感染例と診断した. 古典的には, ムンプス感染症は終生免疫を獲得し, 再感染を起こさないものとされてきた. しかし近年の報告では, 初診時ムンプスIgG抗体が高値の場合には, ムンプス再感染を疑う所見と考えられるようになりつつある.
  • 岡田 隆平, 角田 篤信, 籾山 直子, 岸根 有美, 喜多村 健, 岸本 誠司, 秋田 恵一
    2012 年 115 巻 8 号 p. 791-794
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/10/06
    ジャーナル フリー
    困難な術式や新しい術式に際して術前に解剖体を用いて解剖学的理解を深めることは有意義であるが, 従来のホルマリン固定による解剖体では組織の硬化が強く, 術式に即して展開することが困難であった. Thiel法は1992年に発表された解剖体の固定方法で, 生体とほぼ同じ質感を維持することができ, 病原体による感染の危険性を伴わない. 本固定法で処理された解剖体は組織が柔らかく, 実際の術式に即したかたちで解剖, 検討することができ, 術前の解剖学的検討に有用と考えられた. 本法は他の解剖体固定法と比していくつもの有利な点があり, 術式検討に加え, 新しい手術機器の開発, 外科医の技術評価にも有用であると考えられる.
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