日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
総説
小児滲出性中耳炎診療ガイドラインを理解する
伊藤 真人
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 119 巻 2 号 p. 94-98

詳細
抄録

 2015年1月に日本耳科学会, 日本小児耳鼻咽喉科学会によって「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版」が発刊された. これは本邦の小児滲出性中耳炎ガイドラインの初版であり, 欧米とは医療環境が異なる本邦の現状をふまえて, その実情に即した臨床管理の指針を示している. 本邦のガイドラインは欧米のガイドラインとは次のような点で異なっている. 欧米のガイドラインでは, プライマリケアを担当する家庭医や小児科医に対して, 「いつ, どの時点で鼓膜換気チューブ留置手術のために耳鼻咽喉科専門医へ紹介するか」が主要な論点である. 一方で本邦のガイドラインでは, 中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの滲出性中耳炎そのものへの対応だけではなく, その遷延化因子ともなり得る周辺器官の病変に対する治療を積極的に行うことを推奨している. 欧米のガイドラインでは初期の3カ月間は Watchful waiting が勧められており, 治療は行わずに経過観察のみである. 一方で本邦のガイドラインでは, 鼻副鼻腔炎や急性中耳炎, アレルギー性鼻炎などの周辺器官の病変を合併する症例に対しては, それぞれの病変に対する保存治療を行うことを推奨するという大きなコンセプトの違いがある. むしろこの初期の期間こそ, 小児滲出性中耳炎の病因となっている周辺の炎症性病変に対する特別な配慮が必要であり, 適切な薬物療法を含む保存的加療が求められる. これらによっても3カ月以上改善しない両側の小児滲出性中耳炎症例では, 中等度以上の聴力障害 (40dB 以上) を示す場合は両側の鼓膜換気チューブ留置術を行うべきであり, 難聴の程度が25~39dB であっても治療の選択肢として検討することが勧められる. また鼓膜のアテレクタシスや癒着などの病的変化が出現した場合にも, チューブ留置が推奨される.

著者関連情報
© 2016 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top