日本耳鼻咽喉科学会会報
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119 巻, 2 号
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総説
  • 大橋 敬司, 佐田 憲映
    2016 年 119 巻 2 号 p. 81-86
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     ANCA 関連血管炎は全身の中小型血管の炎症と血中への ANCA の出現を特徴とする希少な難治性疾患である. 以前は予後不良とされていたが治療法の発展により, 予後は改善されてきている. 欧米では再燃や副作用の問題解決のため盛んに臨床研究が行われ, それをもとに診療ガイドラインが策定されている.
     しかし, わが国における ANCA 関連血管炎は, 高齢発症, 顕微鏡的多発血管炎の比率が高いといった特徴を持ち, 多発血管炎性肉芽腫症が大半を占める欧米とは疫学的, 病態的に大きく異なるため, わが国独自の ANCA 関連血管炎診療ガイドラインが長年求められてきた.
     そして, 日本人患者における治療法確立のため厚生労働省研究班を中心に行われた前向き臨床研究や欧米のガイドライン, 関連学会からの意見をもとに ANCA 関連血管炎の診療ガイドラインが2011年策定された. その後, Chapel Hill 分類の改定に伴い名称変更された疾患名を反映させ, 新たな知見を盛り込んだ改訂版診療ガイドラインが2014年に発行されている.
     今回は, この診療ガイドラインをもとに ANCA 関連血管炎について概説し, 新たに開発されている治療法や近年提唱された ANCA 関連血管炎性中耳炎などについても触れたい.
  • ―平衡感覚―
    肥塚 泉
    2016 年 119 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     平衡感覚の受容器である三半規管や耳石器からの情報は, 経核, 舌下神経前位核, 前庭小脳などで構成される, 神経積分器の一種である neural store に入力している. neural store には前庭系からの入力以外に, 体性感覚情報 (深部知覚情報) や視覚情報も入力している. これら3つの感覚情報が neural store で統合処理されて平衡感覚が保たれている. 前庭神経核から入力を受ける前庭視床は, 頭頂―島前庭皮質 (PIVC) や VIP 野など複数の大脳皮質領域に前庭感覚情報を送っている. 海馬にも前庭系からの入力がある. 末梢前庭系においては加齢に伴う変性と萎縮は耳石, 有毛細胞から前庭神経まで前庭器全体に及ぶ. 半規管動眼反射の利得は, 低周波数領域については高齢者でも比較的保たれる. 高周波数領域については80歳を超すと徐々に低下する. oVEMP と cVEMP の振幅は50歳を超すと徐々に低下する. 眼では調節力の低下, 網膜感度の低下などが生じる. 深部知覚情報も加齢により変化を受ける. 高齢者では, 深部知覚情報に対する依存度が高まる傾向を示す. neural store を構成する小脳の Purkinje 細胞のニューロン数に関しては, 加齢による変化を認めない. しかしながら細胞体の体積は加齢により減少する. PIVC や VIP 野に障害が生じると, 垂直位の偏倚, 半側空間無視などの空間識障害などが生じる. 高齢者におけるめまい・平衡障害は転倒のリスクファクターの一つである. 高齢者においては, 生活習慣病などの全身疾患の合併もしだいに多くなるなどの理由により, めまい・平衡障害の病態は, 末梢前庭系や中枢前庭系のみならず, 多モダリティ感覚領域や出力系である筋肉を含む, “平衡維持システム” 全体の障害としての理解が必要となる. 加齢に伴う平衡感覚の低下に対してはめまいリハビリテーションが有用である. 高齢者においては出力系である筋肉にもサルコペニアが生じる. これに対しては, レジスタンストレーニングが推奨されている.
  • 伊藤 真人
    2016 年 119 巻 2 号 p. 94-98
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     2015年1月に日本耳科学会, 日本小児耳鼻咽喉科学会によって「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2015年版」が発刊された. これは本邦の小児滲出性中耳炎ガイドラインの初版であり, 欧米とは医療環境が異なる本邦の現状をふまえて, その実情に即した臨床管理の指針を示している. 本邦のガイドラインは欧米のガイドラインとは次のような点で異なっている. 欧米のガイドラインでは, プライマリケアを担当する家庭医や小児科医に対して, 「いつ, どの時点で鼓膜換気チューブ留置手術のために耳鼻咽喉科専門医へ紹介するか」が主要な論点である. 一方で本邦のガイドラインでは, 中耳貯留液や鼓膜の病的変化などの滲出性中耳炎そのものへの対応だけではなく, その遷延化因子ともなり得る周辺器官の病変に対する治療を積極的に行うことを推奨している. 欧米のガイドラインでは初期の3カ月間は Watchful waiting が勧められており, 治療は行わずに経過観察のみである. 一方で本邦のガイドラインでは, 鼻副鼻腔炎や急性中耳炎, アレルギー性鼻炎などの周辺器官の病変を合併する症例に対しては, それぞれの病変に対する保存治療を行うことを推奨するという大きなコンセプトの違いがある. むしろこの初期の期間こそ, 小児滲出性中耳炎の病因となっている周辺の炎症性病変に対する特別な配慮が必要であり, 適切な薬物療法を含む保存的加療が求められる. これらによっても3カ月以上改善しない両側の小児滲出性中耳炎症例では, 中等度以上の聴力障害 (40dB 以上) を示す場合は両側の鼓膜換気チューブ留置術を行うべきであり, 難聴の程度が25~39dB であっても治療の選択肢として検討することが勧められる. また鼓膜のアテレクタシスや癒着などの病的変化が出現した場合にも, チューブ留置が推奨される.
  • 河野 淳
    2016 年 119 巻 2 号 p. 99-109
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     人工内耳植込み術は, 高度難聴者に対する聴覚獲得の手段として確立されており, 当院においては1986年に多チャネル型人工内耳を本邦で初めて施行して以来, 2014年12月までに710の手術例を数え, 本邦においては既に1万例を超えた. 今回, 本手術を細分化してレトロスペクティブに検討するとともに, 本手術の流れについて記載する. また従来の人工内耳手術に加えて, 2014年7月には残存聴力活用型人工内耳 (electric acoustic stimulation: EAS) が保険収載された. 低音残聴の聴力型に適応されるが, 残存聴力を悪化させることはできないので手術には細心の注意が必要である. また, 特に小児の手術においては通常例といえない奇形や中耳発育不良例, 骨化例などがある. 通常例でも思わぬ事態に陥ることもあるので, 術者はさまざまなトラブルなどに対応する技術を身につけておく必要があり, 術前からの患者への説明を含め, 手術における細心の注意と術後の適切かつ慎重な管理が必要であるのも言うまでもない.
原著
  • ―全身型による比較検討
    川島 慶之, 野口 佳裕, 伊藤 卓, 水島 豪太, 高橋 正時, 喜多村 健, 堤 剛
    2016 年 119 巻 2 号 p. 110-117
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     ANCA 関連血管炎 (AAV) には, 顕微鏡的多発血管炎 (MPA), 多発血管炎性肉芽腫症 (GPA), および好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (EGPA) が含まれる. 今回われわれは, 2004年から2014年の期間に耳症状を訴えて当科を受診した全身型 AAV の20例 (MPA 5例, GPA 9例, EGPA 6例) を対象に, 耳科学的臨床像を全身型により比較検討した. MPA の40%, GPA の56%, EGPA の83%において耳症状が初発症状であった. GPA, EGPA に随伴した耳症状は耳痛, 耳漏, 難聴, 耳閉塞感, めまいと多彩であったのに対し, MPA では難聴, 耳閉塞感のみであり, 耳痛, 耳漏は認めなかった. GPA では耳症状出現から比較的早期に AAV および ANCA 関連血管炎性中耳炎 (OMAAV) の診断に至ったのに対し, EGPA では耳症状出現から OMAAV 診断まで経過が長く, かつ AAV の診断に遅れて OMAAV の診断に至る症例が多かった. 一方, MPA では OMAAV 診断基準に合致しない症例が多かった. 耳病変を合併した全身型 AAV においては, 耳症状が初発症状である症例が多く, AAV の早期診断において耳鼻咽喉科医の果たす役割が大きいことが再確認された. 成人発症の中耳炎, 内耳炎の症例では, AAV の可能性を考慮して積極的に精査を進めること, 診断基準上 AAV や OMAAV と診断されない症例においても慎重に経過観察を続けることが重要である.
  • 神原 留美, 玉井 正光, 堀井 新
    2016 年 119 巻 2 号 p. 118-124
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     human papillomavirus (HPV) 陽性中咽頭癌は, 嚢胞性リンパ節転移を初発症状とする場合があり, 側頸嚢胞との鑑別が問題となる. 症例は70歳代男性で, 側頸嚢胞と考え摘出術を施行したところ扁平上皮癌であった. 当初鰓性癌と考えたが, 1年後の PET-CT で扁桃に集積を認め, 摘出術を施行した. 嚢胞性腫瘤および扁桃の p16 免疫染色を行ったところ, 共に陽性であり HPV 陽性扁桃癌の嚢胞性リンパ節転移と診断した. 嚢胞性腫瘤が扁平上皮癌と判明した時点で p16 免疫染色を施行していれば, 原発巣を早く特定し得た可能性が高い. 頸部の嚢胞性腫瘤は安易に良性と診断せず, 病理診断では p16 免疫染色も併用し, HPV 陽性中咽頭癌の嚢胞性リンパ節転移も念頭に置く必要がある.
  • 松塚 崇, 鈴木 政博, 西條 聡, 池田 雅一, 今泉 光雅, 野本 幸男, 松井 隆道, 多田 靖宏, 大森 孝一
    2016 年 119 巻 2 号 p. 125-128
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     頭頸部扁平上皮癌で原病死した54例を対象に悪液質となる過程と生存期間について modified Glasgow Prognostic Score (mGPS) を基に後ろ向きに調査した. 悪液質群は初診時8例 (15%) で, 死亡前は50例 (93%) であった. 悪液質群50例の生存期間は中央値59日, 平均95日で, 50例中32例が余命3カ月以内であった. 悪液質群50例中40例が当初から緩和医療が導入されていた. mGPS が悪液質群に至ったときには予測余命が短く, 積極的な治療の中断を考慮するなど, mGPS が終末期の頭頸部癌において生命予後を予測する指標となる可能性がある.
  • 山野 貴史, 樋口 仁美, 上野 哲子, 中川 尚志, 森園 哲夫
    2016 年 119 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2016/02/20
    公開日: 2016/03/10
    ジャーナル フリー
     動物用マイクロ CT スキャナ SKYSCAN1176 を用いて, 生体モルモットの内耳の画像検査を試みた. 対象は体重250~430g の正常ハートレー系モルモットのメス4匹とした. 9μm 毎のスライスで, 蝸牛各回転の断面, 蝸牛軸がすべての動物で描出された. このスキャナは生体で内耳の構造を繰り返し観察するのに有用である.
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