日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
耳鼻咽喉科・頭頸部外科学研究の最前線
顔面神経研究の新たな潮流
羽藤 直人
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2018 年 121 巻 5 号 p. 639-644

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抄録

 ウイルス性顔面神経麻痺は時に高度麻痺となり, Bell 麻痺の約1割, Hunt 症候群の約3割で後遺症が生じる. 発症頻度から概算すると, 本邦において毎年7,000人程の後遺症患者が新たに出現していることになる. 顔面神経の後遺症はいったん発症すれば, 完治は困難であり症状が終生持続する. この顔面神経麻痺後遺症を克服するには, 新たな臨床に直結した研究が必要である. ウイルス感染と顔面神経麻痺では, 特に水痘ワクチンの普及に伴い Hunt 症候群の罹患頻度減少が期待されている. 今後, Hunt 症候群の全国的サーベイランスや, VZV ワクチンの有無と Hunt 症候群発症のコホート研究が望まれる. また, HSV では神経毒性の低い HSV 生ワクチンの開発が進行しており, Bell 麻痺の発症を予防できる可能性がある. 顔面神経麻痺の超早期診断としては, 顔面神経障害直後の表情筋の遺伝子発現に着目し研究を行っている. すでに, 神経障害程度に応じて Myogenin, Vamp2, Igfbp6 などの, 顔面表情筋の代謝やアポトーシスに関連する RNA に発現変化を認めており, 新たな麻痺の転帰診断法となる可能性がある. 新規の薬剤投与方法では, 徐放化栄養因子を経鼓膜的に鼓室内に投与する, 低侵襲顔面神経再生療法を基礎研究として行っている. 本治療は発症早期からステロイドの全身投与に追加可能であり, 耳鼻科医であれば外来にて簡便に実施できるため, より汎用性が高い. 顔面神経と再生医療では減荷手術後に顔面神経へ徐放化栄養因子を投与する再生治療を紹介する. 神経再生を促進, 発症2週以降経過していても可能, 低侵襲な手術手技, 合併症の軽減をコンセプトとしており, これまでの成績は良好で, 普遍的な治療となる可能性がある. 新たな後遺症治療法の開発としては, 逆方向トレーサーを用いた過誤支配神経細胞の選択的ブロックの有効性に期待している. これらの基礎および臨床研究のエビデンスを基に, 耳鼻科医の顔面神経診療のアドバンテージを確立することができればと考えている.

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