日本耳鼻咽喉科学会会報
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121 巻 , 5 号
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総説
  • 任 智美
    2018 年 121 巻 5 号 p. 633-638
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     高齢者の味覚障害はフレイルを引き起こす要因の一つと考えられる. 長期に渡る慢性疾患や内服, 消化や口腔機能の低下, また中枢機能の変化など高齢者に特有の状態を総合的にとらえる必要がある. 時に味覚障害を自覚せずに食欲の低下, 嗜好の変化などが表面化して気づくこともあることから, 疑わしい時は味覚機能検査を施行する必要がある. 味覚検査は電気味覚検査と濾紙ディスク法が本邦で使用されているものであるが, 各検査結果は年齢によって閾値が異なるので年齢を考慮して評価する. また認知障害を伴う場合は両者に乖離がみられることも念頭に置く必要がある. 障害部位は末梢受容器から中枢, 心因性までさまざまであるが, 特発性味覚障害の改善率や治療期間は若年者と比較して有意な差がないため, 積極的な治療が望まれるところである. 高齢者は亜鉛の吸収能が低下し, 排泄が増大することから低亜鉛血症に陥りやすい. 現在では唯一亜鉛内服療法が味覚障害に対してエビデンスをもつ治療である. しかし亜鉛内服療法に効果を示さず, 漢方などが功を奏することも経験されるため, 随証に合わせた処方を考える. 時にうつに伴う味覚低下から食欲低下を訴える症例にはベンゾジアゼピン系や NaSSA などの抗うつ薬を考慮する. 精神症状が前面に出ている場合は速やかな精神科へのコンサルトが必要となる.

     時に味覚障害からさまざまな全身疾患が発見される場合もある. 味覚障害をまずは全身疾患として捉えることが必要で, 他科との連携が重要となる. また味覚を狭義で捉えるのではなく, 風味, 一般体性感覚, 食文化, 食環境など広義にとらえ, 原因を追究, 対応を考慮する.

  • 羽藤 直人
    2018 年 121 巻 5 号 p. 639-644
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     ウイルス性顔面神経麻痺は時に高度麻痺となり, Bell 麻痺の約1割, Hunt 症候群の約3割で後遺症が生じる. 発症頻度から概算すると, 本邦において毎年7,000人程の後遺症患者が新たに出現していることになる. 顔面神経の後遺症はいったん発症すれば, 完治は困難であり症状が終生持続する. この顔面神経麻痺後遺症を克服するには, 新たな臨床に直結した研究が必要である. ウイルス感染と顔面神経麻痺では, 特に水痘ワクチンの普及に伴い Hunt 症候群の罹患頻度減少が期待されている. 今後, Hunt 症候群の全国的サーベイランスや, VZV ワクチンの有無と Hunt 症候群発症のコホート研究が望まれる. また, HSV では神経毒性の低い HSV 生ワクチンの開発が進行しており, Bell 麻痺の発症を予防できる可能性がある. 顔面神経麻痺の超早期診断としては, 顔面神経障害直後の表情筋の遺伝子発現に着目し研究を行っている. すでに, 神経障害程度に応じて Myogenin, Vamp2, Igfbp6 などの, 顔面表情筋の代謝やアポトーシスに関連する RNA に発現変化を認めており, 新たな麻痺の転帰診断法となる可能性がある. 新規の薬剤投与方法では, 徐放化栄養因子を経鼓膜的に鼓室内に投与する, 低侵襲顔面神経再生療法を基礎研究として行っている. 本治療は発症早期からステロイドの全身投与に追加可能であり, 耳鼻科医であれば外来にて簡便に実施できるため, より汎用性が高い. 顔面神経と再生医療では減荷手術後に顔面神経へ徐放化栄養因子を投与する再生治療を紹介する. 神経再生を促進, 発症2週以降経過していても可能, 低侵襲な手術手技, 合併症の軽減をコンセプトとしており, これまでの成績は良好で, 普遍的な治療となる可能性がある. 新たな後遺症治療法の開発としては, 逆方向トレーサーを用いた過誤支配神経細胞の選択的ブロックの有効性に期待している. これらの基礎および臨床研究のエビデンスを基に, 耳鼻科医の顔面神経診療のアドバンテージを確立することができればと考えている.

  • 鈴木 賢二
    2018 年 121 巻 5 号 p. 645-650
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     近年わが国でも内視鏡による感染が問題となり, 消化器科, 呼吸器科, 泌尿器科など複数の科でその洗浄・消毒ガイドライン等が示されている. 内視鏡はセミクリティカル機器に分類されるが, 生検時はクリティカル機器と考えるべきである. われわれ耳鼻咽喉科の観察用内視鏡およびチャンネル付内視鏡も同様であるが, これまで感染対策の手引き書は示されていなかった.

     内視鏡はその優れた診断能力や性能の向上により繁用され, 特にわれわれ耳鼻咽喉科領域においては, 診療時間内にその場で決定され, 比較的短時間に行われる検査であるため, 使用頻度は極めて高い. しかしながら施設ごとに保有される内視鏡の数は限られており, 消化器領域の実践ガイドをそのまま踏襲することには限界がある. したがって耳鼻咽喉科領域においてはその実状に合った高水準消毒を中心とした内視鏡感染制御の手引きの作成が必要となってきた.

     日本耳鼻咽喉科学会はワーキンググループを立ち上げ, アンケート調査を行い, 他科で行われている内視鏡の洗浄・消毒と大きな齟齬のない, 耳鼻咽喉科医が実施可能な手引きを作成した.

     本手引きの基本理念は標準予防策とスポルディングの分類に準拠し, すべての人の体液・血液は感染性があると考え, 患者間の感染予防と医療従事者の健康管理に配慮し, 内視鏡の洗浄・消毒を行うことである. すなわち使用直後の洗浄は流水と酵素洗浄剤を用いる. すすぎは十分に行う. 洗浄・消毒は原則として, 内視鏡全体 (挿入部・チャンネル内は必須) に対して行うことが好ましい. 消毒には高水準消毒薬などを用い, 添付文書に準拠する. 過酢酸, グルタラール, フタラールでは換気に注意し, 防護具を着用する. 二酸化塩素水溶液は安全であるが必ず単回使用とする. 乾燥は, アルコールを用い, 特にチャンネル内はしっかり乾燥させる. 保管は専用収納棚かホルダーを使用する. 各施設で実状に合ったマニュアルを作成しこれを遵守する.

  • 小島 博己
    2018 年 121 巻 5 号 p. 651-655
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     耳小骨再建術の対象となる疾患は慢性中耳炎, 真珠腫性中耳炎, 中耳奇形, 外傷性耳小骨離断などである.

     耳小骨連鎖の形成材料には自家組織あるいは人工材料が選択される. 自家組織は排出率が低いなどの長所がある一方, 周囲構造物とコルメラの癒合による可動障害の問題を伴う. 人工材料は供給が十分であり, 加工が容易で手術時間の短縮に役立つなどの利点があるが, 自家組織に比べると排出されやすく, さらにコストがかかることなどの欠点がある. 非炎症耳では, 人工材料, 自家材料のどちらを使用してもよいと考えるが, 炎症性疾患ではなるべく自家組織を使用すべきである.

     Ⅲ型

     Ⅲ- i 型はアブミ骨とツチ骨との間もしくはアブミ骨とキヌタ骨の間に挿入 (interposition) する耳小骨形成であり, ツチ骨柄が少なくとも残っていることが条件となる. ツチ骨が残せない場合, Ⅲ-c 型としてコルメラを鼓膜に直接接着する. Ⅲ-i 型は直接鼓膜に接しない利点があり, 鼓膜浅在化など術後変化の影響を受けにくい. 術後自家組織のコルメラが術後経過とともに顔面神経管や骨性外耳道後壁などの周囲組織と癒着して可動性が失われることがあるので, コルメラはなるべく細く作成する.

     Ⅳ型

     Ⅳ型が必要となる症例は, ほとんどのアブミ骨上部構造が破壊されており, また奇形や外傷を除けば鼓膜の癒着を伴う場合も多く, 術後聴力成績はⅢ型と比較して不良である.

     Ⅳ型では特にアブミ骨底板に再建材料端が確実に接するように可及的に材料先端を細くし, 再建材料と周囲組織が癒着せず, かつ安定させる. 術中所見での上鼓室粘膜の保存状態, アブミ骨底板の可動性の状態の確認は非常に重要である. アブミ骨の可動性の状態は, 術後成績に強く影響する因子であり, 底板周囲の肉芽や索状物などは確実に除去し, 必ず底板を十分に露出させ, 可動性を確認することが重要である.

  • 萩森 伸一
    2018 年 121 巻 5 号 p. 656-663
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     鼓膜形成術は, 鼓膜穿孔に対しその閉鎖を主眼とする手術であるが, 鼓膜以外の中耳伝音系に異常がない場合には聴力改善も得られる. 鼓膜形成術は移植床となる鼓膜固有層・線維性鼓膜輪と移植弁との位置関係から overlay 法, underlay 法, inlay (sandwich) 法に大別される. overlay 法はこれら移植床より移植弁を外側に置く方法である. 古典的な手技であるが, 近年はその施行例数が減少している. underlay 法は移植床より内側に移植弁を置く術式で, 本邦で数多く施行されるフィブリン糊を用いた接着法もこの underlay 法である. 鼓膜皮膚層・固有層・粘膜層の三層すべてを切除する穿孔縁の新鮮創化は耳内から行うことが可能で操作も簡便であるが, 移植弁と穿孔縁とに間隙が生じないよう心掛ける. inlay 法は鼓膜固有層・線維性鼓膜輪と皮膚層との間に移植弁を挟み込む術式である. 皮膚層の欠損が小さく速やかに上皮化が完了する. 移植弁の挟みしろが十分であればフィブリン糊は不要である. しかし耳内操作での皮膚層剥離は困難で, 耳後切開を要する. また移植床作製のため大きく皮膚層ならびに外耳道皮膚を剥離すると, 術後鼓膜の浅在化や anterior blunting が生じる. 鼓膜形成術の穿孔閉鎖率や聴力改善成功率は施設や術式による差はみられるが, どちらも90%程である. 近年は経外耳道内視鏡下耳科手術 (Transcanal Endoscopic Ear Surgery: TEES) の普及で外耳道彎曲例にも簡便な接着法での手術が可能となった. さらに鼓膜再生を促進する新しい技術・手法も開発され, 今後の発展が期待される.

原著
  • 平位 知久, 福島 典之, 呉 奎真, 高橋 紗央里, 西田 学, 益田 慎, 長嶺 尚代
    2018 年 121 巻 5 号 p. 664-672
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     前弯を伴う鼻中隔弯曲症では, hemitransfixion approach を用いることで鼻中隔軟骨尾側端を観察した上での鼻中隔矯正術が可能となる. その際, 鼻腔前方から尾側端における鼻中隔軟骨の形態を観察し, 軟骨尾側端の弯曲を認めない場合を Type A, 尾側端の弯曲を認める場合を Type B, 軟骨尾側端が前鼻棘から脱臼している場合を Type C と分類する. Type A と判定した場合は軟骨尾側端を batten graft により補強する. Type B または Type C と判定した場合は前鼻棘から軟骨尾側端をいったん離断し (Type C では不要), 余剰軟骨を切除した上で軟骨または骨を用いた batten graft による尾側端の再建を行う. Hemitransfixion approach を施行し術後3カ月時に CT 評価を施行した30例について, 画像解析を用いて前弯の変化に関する評価を行った. その結果, Type A の前弯改善率は72.7%に留まったのに対し, Type B および Type C ではそれぞれ87.5%, 90.9%とより良好な結果が得られた. Type A であっても一部の症例では, 尾側端に負荷する力が増大して術後に前弯が顕在化する可能性を考慮し, 前鼻棘から軟骨尾側端をいったん離断した上で尾側端を再建する必要があると考えた.

  • 三谷 壮平, 鵜久森 徹, 川元 日向子, 眞田 朋昌, 能田 淳平, 脇坂 浩之, 羽藤 直人
    2018 年 121 巻 5 号 p. 673-678
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     頸部神経鞘腫に対する手術は, 神経温存を目指した被膜間摘出術など, そのほかの一般的な頸部腫瘍に対する術式とは異なった手技を要する. 今回, 2000~2016年の間に当科で手術を施行した頸部神経鞘腫の12例について臨床的検討を行い報告する. 男性, 女性それぞれ6例ずつで, 平均年齢は46歳 (14~81歳) であった. 起源神経は, 迷走神経が4例と最多で, 交感神経, 腕神経叢がそれぞれ2例, 舌下神経, 鎖骨上神経がそれぞれ1例, 不明が2例であった. 当科では, 術後 QOL に重要と考えられる神経については, 被膜間摘出術を基本とし, 温存を試みている. 頸部神経鞘腫は比較的まれな腫瘍であり術前に確定診断を得られないことが多いが, 術前の画像検査での腫瘍の形状や部位は, 神経鞘腫を疑う上で重要な所見であると考えられた. 被膜間摘出術を施行した9例中5例 (56%) に術後神経脱落症状を生じた (永続性麻痺4例, 一過性麻痺1例) が, 特に腫瘍が舌骨より高位である副咽頭間隙に存在した症例で80% (4/5例) と高率であった. 舌骨より高位に存在する神経鞘腫では, 術後神経脱落症状を生じる可能性が高いことを考慮した上で, 慎重に手術適応を検討する必要がある. また, 神経温存を目指して被膜間摘出術を行う際には, 神経上膜の切開部位に注意を要する.

  • 辻 富彦
    2018 年 121 巻 5 号 p. 679-687
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     自閉症スペクトラム (ASD) の子供の聴覚過敏について保護者に対するアンケート調査による解析を行った. 症例は小学校2年~高校3年までで現在防音保護具を使用している15例である. アンケートは症状の履歴, 現症, 対策について40項目にわたる項目に対して保護者に記載してもらった. 症状に気づいた年齢は2~5歳が大半を占めたが, 聞こえは普通という例がほとんどであった. 症状は年齢が進むにつれ少しずつ改善している例, 不変な例が半々で一部に悪化している例があった. 嫌がる音は個人差が大きくさまざまであったが, その音圧レベルとは必ずしも相関していなかった. 特に嫌がる音では子供や赤ちゃんの声や泣き声が多く, 大丈夫な音はテレビなど画像を伴う音が目についた. 防音保護具は7歳で使用を開始している例が多く, 使用により落ち着いた生活を送れるという例が多かった. 音に慣れる治療は “有効と思わない” という保護者が多かったが, その一方で自分で掃除機をかけるようになって掃除機の音に慣れたという例もあった. ASD の聴覚過敏には環境対策のほか, 防音保護具の使用が有効であることが確認された.

  • 江口 紘太郎, 鈴木 政美, 井田 翔太, 飯島 美砂
    2018 年 121 巻 5 号 p. 688-692
    発行日: 2018/05/20
    公開日: 2018/06/05
    ジャーナル フリー

     側頸部に発生する嚢胞性腫瘤の術前鑑別診断は時に困難であるが, 鑑別診断の方法として, 内容液のアミラーゼ値やサイログロブリン値を測定する試みが報告されている. これまでの報告からは, 側頸嚢胞内容液はアミラーゼ高値でサイログロブリン低値になると示されている. 今回, 内容液アミラーゼ・サイログロブリンがともに高値であった側頸嚢胞の1例を経験した. 病理組織学的免疫染色では TTF-1 陽性・Tg 陰性であった. TTF-1 陽性ならびに内容液サイログロブリン高値であったことから, 側頸嚢胞と甲状腺の間に何らかの発生学的関連があったものと推察された.

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