日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
味覚障害の診断と治療
任 智美
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2019 年 122 巻 5 号 p. 738-743

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抄録

 年間24万人の味覚障害患者が医療機関を受診する中, 味覚障害に対して保険適応を持つ薬剤は存在せず, 従事する医師も少ない. しかし高齢化が進むとともにフレイルの原因になり得ることが考えられ, 今後, 味覚障害診療におけるニーズは増していくと思われる. 味覚障害の主な病態として亜鉛欠乏による受容器障害が挙げられるが, 質的味覚異常では亜鉛欠乏が関与する例が少なく, 亜鉛内服療法の効果が量的異常より低いため, ほかの治療が必要になることが多い. 味覚障害の原因は亜鉛欠乏, 薬剤, 感冒, ストレスなど多種多様であるが現在の原因分類は部位と原因が混在しているため, 見直す必要があると考える. 治療は亜鉛内服療法が唯一エビデンスを持つ薬剤である. 2013年に厚生労働省所管の社会保険診療報酬支払基金よりポラプレジンクの味覚障害に対する適応外使用が認められ, 酢酸亜鉛水和物が2017年3月に低亜鉛血症に対して保険適応が認められた. ビタミン欠乏や鉄欠乏が存在する例では欠乏物質を補うことで速やかに改善する. 時に漢方や向精神薬が著効する例を経験する. 漢方は単剤エキスの治療効果を評価するのが難しく, 基本は随証治療を行う.

 自発性異常味覚の一部は舌痛症と病態が類似しており, 舌痛症に準じて治療を行う. 近年, 舌痛症に対してカプサイシンクリームの有効性が報告されているが, 難治性の自発性異常味覚症例に使用したところ症状が軽減した例が多く見られた. 味覚と舌一般体性感覚は受容器から中枢に至るまで相互作用があり, カプサイシンクリームが自発異常味覚にも効果があることが示唆された.

 味覚異常は義歯や舌粘膜疾患などの局所的な異常のこともあるが, 背景に重大な疾患が隠れている場合もあり, 全身を診て病態を把握することが重要である.

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© 2019 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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