日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 5 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • 岡崎 聡, 植竹 宏之
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 717-723
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     消化器がん領域における化学療法の進歩はめざましく, 特に分子標的薬を用いた治療に関する多くの臨床試験が行われ, 分子標的薬の単剤投与での有効性や従来の細胞障害性薬剤との併用による上乗せ効果が示されている. 消化器がん領域では, 主に, ① 上皮成長因子受容体阻害薬 (EGFR 阻害薬: Cetuximab, Panitumumab, Erlotinib) や ② 血管新生阻害薬 (VEGF 阻害薬: Bevacizumab, Ramucirumab, Aflibercept beta) のほか, ③ 腫瘍の増殖・進展に関連する複数の分子を阻害するマルチキナーゼ阻害薬 (Sorafenib, Imatinib, Sunitinib, Regorafenib) などが用いられている. また最近では, 免疫チェックポイント分子をターゲットとした新規分子標的薬の開発も進み, 胃がんに対する Nivolumab など実地臨床への応用が始まっている.

  • 折田 頼尚
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 724-727
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     甲状腺乳頭癌 (PTC) は, 中には癌でありながら生涯無害に経過する病変が存在する, 頸部リンパ節転移 (N) は重要な予後因子とはならない, 若い患者の方が予後が良い, などほかの癌とは異なった性質を持つ. また, PTC には生物学的悪性度の異なる低危険度癌と高危険度癌の2種類があるという概念が存在し, 低危険度癌は癌死する危険性がほとんどなく非常に予後が良いことが分かっている. 近年, リスク評価に基づく個別の治療選択が行われるようになり, 無症候性微小 PTC (T1aN0M0) の非手術観察や, noninvasive follicular thyroid neoplasms with papillary-like nuclear features (NIFTP) の概念の提唱など, 超音波検査 (US) の普及などに伴う過剰診断・過剰治療の問題に対する対策も含めた risk adapted management の観点において大いなる進歩が見られる. ここではこれまでの PTC に対する治療態度における本邦と欧米諸国の相違, 変遷を振り返るとともにこれからの課題, あるべき治療態度について解説し考察する. われわれは常に肉体的・精神的・経済的すべての面で最も患者の利益となる治療を提供すべく努力を続ける必要がある.

  • 木村 百合香
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 728-731
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     医学部の女子学生入学制限が社会問題化する中, 女性医師の今後急激な増加が予測され, 耳鼻咽喉科においても男女共同参画は喫緊の課題である. 多様な人材の発想や能力の活用は, 組織運営の活性化や競争力の強化をもたらす.

     女性医師の活躍に必要な条件として, 女性医師自身ができることは, ロールモデルやライフワークとの「出会いを大切にする」, ライフイベント中も仕事と「かかわり続ける」, 自分の「内なる殻を打破する」ことが挙げられる. 一方, 指導者や雇用者側には,「イクボス」「スポンサー」として外から女性医師の「内なる殻」を破ること, 男女を問わない適正な勤務環境の整備を期待する.

     Facebook の COO であるシェリル・サンドバーグは「女性のキャリアはジャングルジム」と述べている. 梯子を登るような一本道ではなく, 時に下がったり, 迂回したりしながら, 手足を縦横無尽に伸ばして上るのがジャングルジムである. ライフイベントにより一時的にキャリアをペースダウンしたとしても, 続けてさえいれば道が閉ざされるわけではない. ジャングルジムは, 自分なりのルートで登り, 上では仲間とその眺望を共有できる. 女性医師が自分の活躍の場を見いだす上で, 示唆に富む言葉である.

  • 坂田 俊文
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 732-737
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     耳閉感とは「耳がつまった」,「耳がふさがった」,「何かに覆われた」などと訴えられる聴覚異常感である. 外耳疾患, 中耳・耳管疾患だけでなく, 内耳疾患, 後迷路疾患でも発現し得る. 多くの症例では耳閉感以外の症状や諸検査によって比較的容易に診断できる. 一方, オージオグラムで低音障害を示すものと無難聴例では確定診断が得られ難いことがある. 容易に診断がつかない場合には, 耳管機能不全と急性低音障害型感音難聴の可能性を継続的に観察する. 耳管機能不全では鼻すすり型を含めた耳管開放症を診断するため, 耳管閉鎖処置や耳管開放処置などを行いながら, 耳閉感の変化や鼓膜所見の変化を観察する. また, 急性低音障害型感音難聴は自覚症状があってもオージオグラムが正常な時期があるので, 純音聴力検査で低音障害を捕らえるまで一定期間観察する. また, 低音障害がある場合はグリセロールテストも有用である. ちなみに低音障害の気骨導差は伝音障害と感音障害の鑑別に必ずしも有用でない. これらのほかに診断しにくい疾患としては, 上半規管裂隙症候群, 乳突蜂巣内の慢性炎症, 顎関節症などがあり, 慢性的な感音難聴も耳閉感の原因となる.

     耳閉感を訴える患者の中には診断困難な例や, 診断できても難治な例があり, 少なからず QOL を悪化させる. 耳閉感の早期改善や完全消失が困難な場合には, 疾患に対する十分な説明が必要であるほか, 認知行動療法の要素を取り入れた診療, TRT 療法など耳鳴治療に準じた対応が有用な例がある. 聴覚補償が必要な難聴があれば, 補聴器適合が望ましく, 耳閉感を克服しやすくなる. 耳閉感の苦痛が強い患者は, 少なからず失聴恐怖や破局視などを抱えていることがあるので, 適切な情報提供により正しい認知が得られるよう導くことも大切である.

  • 任 智美
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 738-743
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     年間24万人の味覚障害患者が医療機関を受診する中, 味覚障害に対して保険適応を持つ薬剤は存在せず, 従事する医師も少ない. しかし高齢化が進むとともにフレイルの原因になり得ることが考えられ, 今後, 味覚障害診療におけるニーズは増していくと思われる. 味覚障害の主な病態として亜鉛欠乏による受容器障害が挙げられるが, 質的味覚異常では亜鉛欠乏が関与する例が少なく, 亜鉛内服療法の効果が量的異常より低いため, ほかの治療が必要になることが多い. 味覚障害の原因は亜鉛欠乏, 薬剤, 感冒, ストレスなど多種多様であるが現在の原因分類は部位と原因が混在しているため, 見直す必要があると考える. 治療は亜鉛内服療法が唯一エビデンスを持つ薬剤である. 2013年に厚生労働省所管の社会保険診療報酬支払基金よりポラプレジンクの味覚障害に対する適応外使用が認められ, 酢酸亜鉛水和物が2017年3月に低亜鉛血症に対して保険適応が認められた. ビタミン欠乏や鉄欠乏が存在する例では欠乏物質を補うことで速やかに改善する. 時に漢方や向精神薬が著効する例を経験する. 漢方は単剤エキスの治療効果を評価するのが難しく, 基本は随証治療を行う.

     自発性異常味覚の一部は舌痛症と病態が類似しており, 舌痛症に準じて治療を行う. 近年, 舌痛症に対してカプサイシンクリームの有効性が報告されているが, 難治性の自発性異常味覚症例に使用したところ症状が軽減した例が多く見られた. 味覚と舌一般体性感覚は受容器から中枢に至るまで相互作用があり, カプサイシンクリームが自発異常味覚にも効果があることが示唆された.

     味覚異常は義歯や舌粘膜疾患などの局所的な異常のこともあるが, 背景に重大な疾患が隠れている場合もあり, 全身を診て病態を把握することが重要である.

  • 内田 育恵
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 744-749
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     超高齢社会を迎えた日本では, 要介護原因の1位が認知症となり, 一方, 認知症の分野で ‘難聴’ が一気に社会的注目を集めるきっかけとなった Lancet 国際委員会の報告では, 医学的介入により認知症発症を予防できる要因として難聴が筆頭に挙げられた. 認知症や認知症以外の不利益に対し, 難聴が関連しているというエビデンスは積み重ねられており, 健康寿命の延伸のために, 中年期以降の聴力維持はますます重要性を増すと考えられる.

     認知症だけでなく認知機能障害や認知機能ドメインと聴力, 就労や所得と聴力, 不慮の事故による負傷リスクと聴力, に関する先行研究の報告を概説し, 補聴器の使用がいかに影響するかを検討した研究を取り上げた. 補聴器の認知症予防に対する効果は, 集団規模の大きな, 長期間の追跡プロジェクトが各国で実施されているものの, 結果は必ずしも一定しない. われわれが遂行中の, 補聴器使用と認知機能に関する研究も中間解析について紹介した. それらを踏まえて, 超高齢社会の難聴ケアについて期待を込めた今後の展望を述べた.

  • ―ELPS, TOVS を 中心に―
    山下 拓, 岡本 旅人, 加納 孝一, 堅田 親利
    原稿種別: 総説
    2019 年 122 巻 5 号 p. 750-756
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     咽喉頭内視鏡や消化器内視鏡の進歩により, 頭頸部の表在癌や比較的早期の浸潤癌が発見されることが多くなってきた. 当科では, 経口的手術前の局所病変の広がりの診断や深達度の予測および重複癌のスクリーニングを目的として, また頭頸部癌切除断端陽性ないし近接, 飲酒喫煙歴, flusher, 食道癌の既往, 食道粘膜の多発ヨード不染帯などの高リスク症例の術後サーベイランスを目的として消化器内科医およびトレーニングを受けた耳鼻咽喉科医による NBI 拡大内視鏡観察を用いた上部消化管内視鏡検査を行っている. リンパ節転移やリンパ管侵襲の予測因子である上皮下層浸潤は, 0-Ⅰ 型および NBI 拡大内視鏡による type B2/B3 血管と相関があり, 内視鏡所見の詳細な記載が手術プランの決定に重要と考えている.

     ELPS (endoscopic laryngo-pharyngeal surgery) は耳鼻咽喉科医と消化器内科医の共同手術として, 中・下咽頭, 声門上の表在癌を対象に行っている. 75例111手術の検討において局所制御率は比較的良好であり, 現在まで再発例も再度経口的手術を行うことで制御され, 5年疾患特異的生存率92.2%と良好な結果が得られている.

     TOVS (transoral videolaryngoscopic surgery) は耳鼻咽喉科医単独で行う手術として, Tis-T2, 一部の T3 症例の中咽頭および声門上癌を中心に行っている. TLO (transoral lateral oropharyngectomy) の手術環境では71.4%であった断端陰性率が, TOVS では88.9%と向上しており, 手術環境の改善が断端陰性率の向上, ひいては予後改善や機能温存にも寄与すると考えている. TLO と TOVS を合わせた51例の検討において, 5年疾患特異的生存率・粗生存率はともに92.8%と良好である.

     本邦で独自に開発された ELPS, TOVS は各種デバイスの進歩, 経験数の増加により, 治療成績, 機能温存, 安全性などの点において安定した経口的切除手技として確立・発展してきた.現在, 表在癌に対する本邦における経口的手術の絶対適応決定や, その後に続く適応範囲拡大のための臨床試験である「頭頸部表在癌に対する経口的手術の第 Ⅱ/Ⅲ 相試験 (TOS-J trial)」が行われており, その結果が期待される.

原著
  • 河野 敏朗, 湯田 惠子, 石戸谷 淳一, 生駒 亮, 桑原 達, 折舘 伸彦
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 5 号 p. 757-763
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     全身ステロイド療法と高気圧酸素療法および鼓室内ステロイド療法の3者併用療法により, 治療された突発性難聴 Grade 4 の治療成績と, 治療成績に影響を与える予後因子の有効性について検討をした. 対象を2010年8月~2017年9月まで当院に初回入院治療された突発性難聴 Grade 4: 136例とした. 治療成績を検討し, さらに治療成績にかかわる予後因子 ① 年齢 ② 治療開始までの日数 ③ 治療前聴力レベルについて, 多重ロジスティック回帰分析を行った. また上記3因子のカットオフ値を受診者動作特性曲線から求めその有効性について検討をした. 突発性難聴 Grade 4: 136例の治療成績は, 治癒21例 (15.4%), 著明回復71例 (52.2%), 回復31例 (22.8%), 不変13例 (9.6%)で回復以上の有効率は90.4%であった. 多重ロジスティック回帰分析では, 治療前聴力レベルが治療成績に最も有意に影響を与えていた. カットオフ値は 104dB であった. 104dB 以下では 105dB 以上に比較して全周波数で聴力レベル改善が有意に良好であった. 3者併用療法による突発性難聴 Grade 4 では, 治療前聴力レベルが治療成績に最も有意に影響を与えておりカットオフ値 104dB は予後予測に有効であった.

  • 市村 恵一
    原稿種別: 原著
    2019 年 122 巻 5 号 p. 764-769
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     オスラー病患者の中等症以上の鼻出血に対して施行される鼻粘膜皮膚置換術は有効な治療法であるが, 出血部位の大半を占める鼻腔前部のみを皮膚置換範囲とするため, 出血の完全制御は期待できない. 術後に出血があっても頻度も量も著減するため, 患者の QOL は改善されるが, 再び出血量が増加する例も存在し, その中には再手術に至る症例もある. 本手術の術後出血についての詳細な分析は従来見られていないため, 再出血症例の出血部位を検討した. 対象は1991年8月~2017年12月までの26年間に鼻粘膜皮膚置換術を施行した患者100名中, 術後経過の追えなかった9例を除く91例である. 再出血の多くは移植した皮膚片が生着しなかった部位からのものであるが, 中には置換した皮膚に新生した怒張血管や, 移植部より前方の鼻前庭皮膚の血管からの例も見られた. 術式の変遷による再出血部位の特徴についてみると, 初期に鼻中隔から下鼻甲介下半にのみ皮膚移植していた時期には, いわゆる縫い代とした鼻中隔前上部からの出血が多く, 移植を全周性にしてからは,出血の多くは移植皮膚の脱落部, 特に前上部, 前下部, 下鼻甲介前方付着部であったが, 出血の頻度は減少した. 置換範囲を鼻前庭皮膚深部に伸ばしてからは脱落部が著減したため, 結果として再出血も著減した. 全症例のうち, 21例 (23.1%) に再手術がなされていたが, 術式の変更に伴いその率は減少した.

  • 秋定 直樹, 石原 久司, 藤澤 郁, 竹内 彩子, 赤木 成子, 山口 麻里, 妹尾 明美
    原稿種別: 症例報告
    2019 年 122 巻 5 号 p. 770-776
    発行日: 2019/05/20
    公開日: 2019/06/12
    ジャーナル フリー

     梅毒は Treponema pallidum によって引き起こされる性感染症である. 口腔咽頭領域の梅毒病変は特徴的であり, 医療者側に知識があれば比較的容易に鑑別できるとされている. しかし, 中には典型的な所見を欠く症例も存在する. 特に, 抗菌薬が既に投与されている場合には診断に至らず無症候梅毒に移行し, 感染拡大の要因となることが懸念されている. 今回われわれは頸部腫瘤を主訴に受診した2例の梅毒を経験した. 2例とも典型的な粘膜病変を欠いていた. 本邦では2013年以降梅毒患者が急増しており, 梅毒は決して過去の疾患ではない. われわれ耳鼻咽喉科医は頸部腫瘤の鑑別に梅毒性リンパ節炎を挙げる必要がある.

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