粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.