臨床において味覚神経障害をまとめた報告は多くないため, 今回は受容器障害ではなく, 神経障害に焦点をあてて言及した.
味覚を支配する末梢神経は, 舌前方2/3を鼓索神経, 舌後方1/3を舌咽神経舌枝, 軟口蓋を大錐体神経が支配している. 鼓索神経領域の味覚神経障害の機序として, 1) 顔面神経障害に伴うもの, 2) 中耳手術時などの直接損傷, 3) 舌神経断裂時の損傷, 4) 中間神経障害などが挙げられる. 鼓索神経は一般体性感覚も司る可能性があるため, 味覚のみならずしびれなどの症状にも留意する.
中枢性味覚異常は臨床上, 器質性, 機能性に分類できる. 器質性の頻度は少ないものの見逃してはならないため, 進行する神経症状やほかの神経症状が見られる例, または一側性の味覚障害例は頭部 MRI の施行を考慮する.
また機能性異常の1例として舌痛症の特徴をもつ自発性異常味覚が挙げられる. 中枢神経系の抑制機構が脆弱になっている状態が考えられ, すなわち舌痛症に類似した病態である. いまだ確立された治療は存在しないが, 病態説明や内服加療に加えて, 症状の緩和を目的とした対応も必要であり, その一つとして当科ではカプサイシンの外用を使用している. そのほかにもマウスピース, 飴・ガム, 立効散のうがい, 口腔用ジェルなどが使用される.