日本耳鼻咽喉科学会会報
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嗅上皮第5型細胞に関する研究
太田 行紀
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キーワード: 嗅上皮, 第5型細胞, 三叉神経
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1998 年 101 巻 10 号 p. 1234-1249

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抄録

嗅上皮を構成する細胞は嗅細胞,支持細胞,基底細胞に加え,第5型細胞とmicrovillar cellが知られている.中でも第5型細胞とmicrovillar cellの形態的な差異ははっきりしておらず,機能は不明な点が多い.今回マウスの嗅上皮にて両細胞の微細形態をSEM, TEMにて観察し,機能を推測するために嗅球除去後の形態的変化と嗅球,三叉神経節後線維にHRPを注入し嗅上皮の観察を行った.TEM観察により,第5型細胞は指状の強固で真っ直ぐな微絨毛をもち,内部にマイクロフィラメント束よりなる芯状構造を有することが特徴であり,一方,mi-crovillar cellの微絨毛は芯状構造をもたず,蛇行しており,両者は明らかに異なる細胞であった.正常嗅上皮ではSEM観察により第5型細胞もmicmvillar cellも観察することはできなかったが,嗅球除去術を行い,嗅線毛マットを消失させるにとにより,第5型細胞の観察が可能となった.嗅球除去後300日目では,嗅細胞が消失し,支持細胞の微絨毛が短縮し,microvillar cellの表面構造が明瞭となり,その微絨毛は第5型細胞より短く,放射状に広がっていた.第5型細胞もmicrovillar cellも嗅球除去による影響を受けることなく観察された.嗅球にHRP注入後ほとんどの嗅小胞がHRP陽性となっていたが,第5型細胞およびmicrovillar cellともにHRPは認められなかった.三叉神経節後線維内にHRPを注入したが粘膜固有層内および上皮基底部の少数の神経線維にHRPが認められたが,第5型細胞およびmicrovillar cellには認められなかった.第5型細胞は嗅覚系とは別系統のmechanoreceptorと考えられ,microvillar cellは幼若あるいは寿命を迎えた支持細胞と考えられた.

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