日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
101 巻, 10 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 追加手術の有用性について
    兵頭 政光, 湯本 英二
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1227-1233
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    愛媛大学医学部附属病院耳鼻咽喉科において過去21年間に経験した上咽頭癌33症例について臨床統計的観察を行うとともに,治療成績を向上させるための我々の治療方針について報告した.
    症例の男女比は24:9,年齢は平均56.0歳であった.初発症状で最も多いのは耳管機能障害による耳症状14例で,次いで頸部リンパ節腫脹11例,鼻症状6例などの順であった.症状発現から診断確定まで平均5.8ヵ月を要しており,1年以上を要した例も6例あった.その結果,病期分類でIII期が9例,IV期が21例と進行例が大半を占めた.治療は放射線療法を主体とし,7例ではFAR療法や少量シスプラチン併用療法を行った.また原発巣の制御を徹底するために,最近では外照射線量を66~70Gyに増やすとともに,remote afterloading system (RALS)による腔内照射を追加している.さらに放射線療法後も原発巣に残存する腫瘍に対しては経翼突法などによる摘出手術を12例に,頸部リンパ節転移に対しては頸部郭清術を14例に行った.その結果28例で根治治療が行えた.全症例の5年生存率は56.9%であったが,IV期症例の生存率は33.2%と依然として不良であり,早期診断の重要性が示唆された.原発巣に対する手術を行った症例のうち局所再発をきたしたのは2例のみであり,5年生存率も65.6%で手術非施行群(49.2%)より高かった.また頸部郭清術を行った症例には頸部リンパ節再発は認めなかった.このように上咽頭癌は放射線治療が主体になることは当然であるが,放射線治療後の原発巣に対する手術や頸部郭清術は治療成績を向上させる上で重要な治療手段になりうることを強調したい.
  • 太田 行紀
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1234-1249
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    嗅上皮を構成する細胞は嗅細胞,支持細胞,基底細胞に加え,第5型細胞とmicrovillar cellが知られている.中でも第5型細胞とmicrovillar cellの形態的な差異ははっきりしておらず,機能は不明な点が多い.今回マウスの嗅上皮にて両細胞の微細形態をSEM, TEMにて観察し,機能を推測するために嗅球除去後の形態的変化と嗅球,三叉神経節後線維にHRPを注入し嗅上皮の観察を行った.TEM観察により,第5型細胞は指状の強固で真っ直ぐな微絨毛をもち,内部にマイクロフィラメント束よりなる芯状構造を有することが特徴であり,一方,mi-crovillar cellの微絨毛は芯状構造をもたず,蛇行しており,両者は明らかに異なる細胞であった.正常嗅上皮ではSEM観察により第5型細胞もmicmvillar cellも観察することはできなかったが,嗅球除去術を行い,嗅線毛マットを消失させるにとにより,第5型細胞の観察が可能となった.嗅球除去後300日目では,嗅細胞が消失し,支持細胞の微絨毛が短縮し,microvillar cellの表面構造が明瞭となり,その微絨毛は第5型細胞より短く,放射状に広がっていた.第5型細胞もmicrovillar cellも嗅球除去による影響を受けることなく観察された.嗅球にHRP注入後ほとんどの嗅小胞がHRP陽性となっていたが,第5型細胞およびmicrovillar cellともにHRPは認められなかった.三叉神経節後線維内にHRPを注入したが粘膜固有層内および上皮基底部の少数の神経線維にHRPが認められたが,第5型細胞およびmicrovillar cellには認められなかった.第5型細胞は嗅覚系とは別系統のmechanoreceptorと考えられ,microvillar cellは幼若あるいは寿命を迎えた支持細胞と考えられた.
  • 坂本 徹
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1250-1259
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    当院では1992年よりリニアックを使用し分割を加えた定位放射線照射(STI)を国内で初めて聴神経鞘腫に対して臨床応用している.STIの有効性と聴力障害をガンマナイフと文献学的に比較検討した.さらに聴力保存の予後因子について照射群と経過観察群と対比し解析した.対象は照射例48例で累積有効率は97.9%(3年),85.6%(5年)累積聴力保存率は92.9%(1年),75.8%(2年),でありガンマナイフと有効率は同等でしかも聴力障害の発生は低率であった.また,照射群の平均聴力低下値は1年8.4dB,2年11.7dB,3年11.8dBで経過観察群と比較し聴力低下値に有意差を認めなかった.経過観察例における聴力の予後を予測する因子は認められなかった.照射症例における聴力保存の予後因子は,難聴の発症が突発型,聴力像は正常型,谷型において保存率は高かった.聴力保存群の平均年齢は43.5歳,平均聴力レンベルは31.9dBで聴力悪化群との間に有意差を認めた.また,照射後の聴力予後と腫瘍径との相関は認められなかったが,年齢,聴力レベルと照射後の聴力低下値との相関が認められた.これらより聴力保存の予後を左右するのは蝸牛神経の被障害性の亢進の有無が関与していると考えられた.MRIの普及により今後さらに聴力良好例や小腫瘍例の増加が予想され,これらの症例に対する治療法の選択は重要な問題である.リニアック定位放射線照射の有効性と安全性は適応症例に対して聴神経鞘腫治療の第一選択となる可能性を秘めていると考えられたが.今後,多数の症例の解析と長期間の観察が必要である。
  • 高橋 光明, 坂田 文, 海野 徳二, 北南 和彦, 執行 寛
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1260-1265
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    原因不明の感音難聴50例に対して,免疫異常の有無を血清学的に検討した.免疫グロプリン,抗核抗体,抗DNA抗体,リウマチ因子,血清補体価,免疫複合体について検査した結果,50%(25例)の症例に検査値の異常を認めた.項目では免疫グロプリン,補体価,抗核抗体,RFに異常率が高かった.異常症例中6例には基礎疾患として自己免疫疾患が合併していた.免疫検査で異常があった症例ではステロイド治療による難聴の改善率が高かった.以上のことより感音難聴の一部に免疫異常が関与していることが示唆され,感音難聴の原因検索および治療を計画する上で免疫血清学的検査は有用と考えられた.
  • 寺山 善博
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1266-1275
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    頭頸部腫瘍の中で鼻副鼻腔の乳頭腫は,比較的まれな良性腫瘍である.しかしその組織学的形態,易再発性,悪性腫瘍の合併,悪性変化の点から他の鼻副鼻腔良性腫瘍とは異なった臨床的特徴をもっている.本研究では,東邦大学医学部第一耳鼻咽喉科において1975年から1994の20年間に手術を施行した鼻副鼻腔の乳頭腫30例を対象として,臨床的検討,病理組織学的検討に加えパラフィン包埋切片を用いてフローサイトリーによる核DNA量の測定を行い,aneuploidの検出について検討した.腫瘍発生部位は上顎洞自然孔周囲が19例で最も多く,次いで鼻中隔が7例であった.骨破壊は12例に認められた.病理組織所見では内方発育型乳頭腫17例,外方発育型乳頭腫13例であり異型性が4例に認められた.再発は9症例に認められ,悪性変化は5症例に認められた.核DNA量においてdi-ploidは25例(83.3%)に認められ,一方aneup1oidは5例(16.7%)に認められた.鼻副鼻腔乳頭腫の悪性変化の危険因子として1) 発育形態,2) 骨破壊の存在,3) 異型性の存在,4) 悪性変化までの再発の有無,5) aneuploidの存在,の5項目が重要であると考えた.悪性変化を起こした5症例は全例この5項目中4項目目を満たしていた.この5項目中4項目以上を満たす鼻副鼻腔乳頭腫は悪性変化を起こす可能性が高いことが示唆された.また,悪性変化までの期間は一定せず.10年以上経過してから悪性変化を起こした症例もある.そのため長期に及ぶ経過観察が必要である.
  • 朝倉 光司, 氷見 徹夫, 原渕 保明, 浜本 誠, 形浦 昭克, 晴山 雅人, 傳野 隆一, 平田 公一, 草島 勝之
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1276-1282
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    1982年から1995年までに札幌医科大学耳鼻咽喉科にて治療を行った,下咽頭癌83例を対象に臨床的検討を行った.下咽頭癌全症例における累積5年生存率は34.9%であり,M1症例を除く根治治療例(n=79)では37.2%であった.根治照射例の累積5年生存率は38.6%であり,T1,T2,N0,N1症例,特に40Gyの照射でほぼCRの縮小効果を認めたものでは,根治照射単独あるいは頸部郭清術の併用で高率に腫瘍制御が得られた.根治手術例の累積5年生存率は35.5%であり,T1,N2症例では根治照射よりも優れていた.しかし,N3症例では手術,照射両群ともに長期生存例は認めなかった.
  • 耳下腺および顎下腺の腫瘤性疾患について
    田中 一仁, 増田 正純, 新田 清一, 小形 章, 鈴木 理文
    1998 年 101 巻 10 号 p. 1283-1291
    発行日: 1998/10/20
    公開日: 2008/03/19
    ジャーナル フリー
    唾液腺の腫瘤性疾患の質的診断としての穿刺吸引細胞診の信頼性,特に組織型の推定診断の信頼性を検討するため,穿刺吸引細胞診を術後の組織診断と比較した.対象は耳下腺93例,顎下線31例で,悪性腫瘍28例,良性疾患96例の計124例である.結果は悪性の判定のsensitivityは64%,specificityは99%,accuracyは91%であり,fare negativeは10例でその組織診断は腺様嚢胞癌2例,粘表皮癌(高分化型),2例,腺房細胞癌4例,多形腺腫癌2例であり,false positiveは1例でサルコイドーシスであった.組織型が推定できた割合は悪性の判定例で68%,良性のそれで69%であった.この推定された組織型の正診率は悪性腫瘍全体では46%で,扁平上皮癌,腺癌,悪性リンパ腫で高く,腺様嚢胞癌,粘表皮癌,
    腺房細胞癌で低く,一方多形腺腫のそれは73%,ワルチン腫瘍は82%であった.また組織型の推定診断のpredictive valueは悪性腫瘍で100%.多形腺腫で91%,ワルチン腫瘍で100%であった.以上から唾液腺の腫瘤性疾患の質的診断としての穿刺吸引糊胞診は鍵性腫瘍や扁平上皮癌,腺癌,悪性リンパ腫などの高悪性度腫瘍では信頼性が高く,腺様嚢胞癌や低悪性度腫瘍の粘表皮癌と腺房細胞癌ではsensitivityや組織型の正診率は低い結果であつた.
feedback
Top