日本耳鼻咽喉科学会会報
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強い開口障害を有する上顎顎欠損患者の顎補綴
臼井 秀治下郷 和雄大岩 伊知郎原田 輝彦坂倉 康夫
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キーワード: 上顎癌, 顎補綴, 開口障害
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1998 年 101 巻 3 号 p. 297-306

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抄録

上顎癌に対する手術療法後の社会復帰を促すための土顎顎欠損に対する機能的補助療法としての顎補綴物の役割は増大してきている一方で,上顎顎欠損症例では,開口障害があるものが30%の割合で存在することが知られている.このために顎補綴を行うための口腔内での操作が物理的に不可能であると考えられ,腫瘍外科医にとって顎補綴治療をためらわせる一因になっているものと推察される.
1984から1992年の閥に顎補綴症例185例を経験し,全例顎補綴製作し装用させた.このうち,20mm未満の開口量を示す開口障害例が54例あり,これらについて開口量,印象採得回数,顎補綴物の特長,重量などを指標に顎補綴施術が困難か否かについて検討した.
その結果,現在までのところ最低の開口量が3mm以上あれば義顎製作所要日数,義顎重量およびその形態,印象採得回数には,影響を及ぼさず,義顎製作は可能であった.
開口量は大きいほど顎補綴施術はより容易であると直感的には感じられるが,この開口部領域,前歯部作業空間面積は共に難易度の差は認められず,むしろ一定以上の開口量とそれを補う空間,すなわち,頬部口唇部の伸展性,残存歯牙,残存顎堤,切除部周辺の瘢痕帯に囲まれた作業空間が難易度を決定する要因になり得るものと推察された.上顎切除後欠損症例で,開口障害が顎補綴治療を不可能にする絶対的な要因とはならなかった.

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