以前より.口腔•嘱頭がん手術後の嚥下障害に対して輪状嘱頭筋切除術,舌骨•喉頭挙上術が試みられ,その有用性が報告されているが,その適応はいまだあいまいである.
本報告の目的は舌•中咽頭広範囲切除に伴う嚥下障害の解決策としての輪状咽頭筋切断術,及び舌骨•喉頭挙上術の有用性とその限界について検討することである.
1992年4月から1996年1月までの間に当科において誤嚥防止術式として舌骨•喉頭挙上術,輪状咽頭筋切除術を施行した舌•中咽頭がん症例.19例を対象とした.年齢は28歳から69歳,舌原発が14例,中咽頭原発が5例である.両側舌骨上筋群切除を伴う舌亜全摘あるいは全摘,舌根を含む中咽頭広範囲切除症例をその適応とした.以上の症例に対して術後の摂取食品や食事内容と切除範囲,及び年齢との関連を検討した.
その結果,常食を摂取できる2例を含み、15例68%で経口摂取が可能であった.そして,舌根の切除が50%,を超えるかどうかと年齢が60歳以上か否かが経口摂取の可否に有意に影響した.若年症例(59歳以下)では舌根を80%切除しても,常食を摂取できる症例(35歳),舌根を100%切除しても誤嚥しない症例(41歳,51歳)を経験した.しかし一方では,高齢者(60歳以上)で舌根を50%以上切除した4症例はすべて経口摂取できなかった.可動部舌の切除範囲,再建皮弁等は有意な差が認められなかった.
舌骨•喉頭挙上術, 輪状咽頭筋切断術に広範囲舌,中咽頭切除症例において非常に有用で,若年者ならば,舌根を含む舌全摘であっても喉頭を温存できる.しかし,高齢者でけ限界があり,加齢による嚥下反射の低下が影響ていることが示唆された.
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