日本耳鼻咽喉科学会会報
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幼児の両耳分離能と一側耳分離能に関する研究
永渕 正昭
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1970 年 73 巻 2 号 p. 133-144

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抄録

幼児の両耳分離能及び一側耳分離能の発達過程を検討するために, 両耳分離能検査 (dichotic listening) と一側耳分離能検査 (monaural listening) を3~6才の正常男女80名と正常成人5名について行なつた. 検査は, 2音節単語と3音節単語をそれぞれ対にして2チャンネルテープレコーダーに録音したものをオージナメーターを通してイヤホーンで聞かせた. まず両耳分離能検査を行ない, 両耳ともに得点が5 (聴取弁別: 100%)になる最小刺激音圧を求めた. 次にその最小音圧で一側耳分離能検査を行ない, その分離能を右耳と左耳で比較検討した.
いづれの検査においても3音節単語の方が2音節単語よりも正答率が高かつた. 両耳分離能検査では3才児の成績が最も悪く, 特に3才半未満の場合は検査が困難であつた. 4才になると成績はかなりよくなり, 5才, 6才と進むにつれて成人のパターンに近づくことがわかつた. しかし成人の域に達するのは7才以後と思われた. 成人では50dBで両耳分離は完全になされるが, 3才児では80dBでも60%程度であつた. 各年令を通して, 右耳の方が左耳より聴取率はよかつたが, その差は両耳分離能検査では有意義を認め, 一側耳分離能検査では認めなかつた. 一側耳分離能検査では3才児が最も悪く, 成人が最もよかつた. そして4, 5, 6才児はその中間で比較的類似した成績であつた. 同一音圧であれば両耳分離能の方が一側耳分離能より成績がよかつた. 男女の成績を比較すると, 3才児では女の方が優つていたが4才以綬では特に男女差を認めなかつた. この検査を施行して, 成績を左右する要因に検査語の組合せやその呈示時間, 更に被検児の知能等が関与しているように思われた.

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