日本耳鼻咽喉科学会会報
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73 巻, 2 号
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  • 永渕 正昭
    1970 年 73 巻 2 号 p. 133-144
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    幼児の両耳分離能及び一側耳分離能の発達過程を検討するために, 両耳分離能検査 (dichotic listening) と一側耳分離能検査 (monaural listening) を3~6才の正常男女80名と正常成人5名について行なつた. 検査は, 2音節単語と3音節単語をそれぞれ対にして2チャンネルテープレコーダーに録音したものをオージナメーターを通してイヤホーンで聞かせた. まず両耳分離能検査を行ない, 両耳ともに得点が5 (聴取弁別: 100%)になる最小刺激音圧を求めた. 次にその最小音圧で一側耳分離能検査を行ない, その分離能を右耳と左耳で比較検討した.
    いづれの検査においても3音節単語の方が2音節単語よりも正答率が高かつた. 両耳分離能検査では3才児の成績が最も悪く, 特に3才半未満の場合は検査が困難であつた. 4才になると成績はかなりよくなり, 5才, 6才と進むにつれて成人のパターンに近づくことがわかつた. しかし成人の域に達するのは7才以後と思われた. 成人では50dBで両耳分離は完全になされるが, 3才児では80dBでも60%程度であつた. 各年令を通して, 右耳の方が左耳より聴取率はよかつたが, その差は両耳分離能検査では有意義を認め, 一側耳分離能検査では認めなかつた. 一側耳分離能検査では3才児が最も悪く, 成人が最もよかつた. そして4, 5, 6才児はその中間で比較的類似した成績であつた. 同一音圧であれば両耳分離能の方が一側耳分離能より成績がよかつた. 男女の成績を比較すると, 3才児では女の方が優つていたが4才以綬では特に男女差を認めなかつた. この検査を施行して, 成績を左右する要因に検査語の組合せやその呈示時間, 更に被検児の知能等が関与しているように思われた.
  • 菅 文朗
    1970 年 73 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    各種血管拡張剤が蝸牛血流, 蝸牛電位および血圧におよぼす影響を105匹のモルモットを用いて系統的に研究した. 蝸牛血流の変化は電気的インピーダンス脈波計で記録し, 同時に蝸牛電位, 全身血圧および心電図を記録した.
    交感神経β受容器刺激剤は蝸牛血流に僅かな増加しかおこさず, 大量を与えると蝸牛血流を減少した. α-アドレナリン効果遮断剤は蝸牛血流を増加させた. コリン作働性神経剤と抗コリンエステラーゼ剤は蝸牛血管を拡張するようであつたが, 同時におこる血圧低下のために蝸牛血流は増加するとは限らなかつた. 自律神経節遮断剤は蝸牛血流を減少させた.
    炭酸ガス, 亜硝酸アミル, パパベリン, ジピリダモール, 血清キニン類, ヒスタミン, ベーターヒスチンおよびハイドララジンは蝸牛血流を増加させた. ニコチン酸とニコチニル酒石酸は蝸牛血流に僅かな変化しかおこさなかつた.
    蝸牛電位は血管拡張剤によつては変化しなかつた.
  • 山浦 一男
    1970 年 73 巻 2 号 p. 154-177
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    医用電子計算機の加算平均法を応用してヒトの外耳道及び鼓室岬角部より非手術的に蝸牛電気生理学的反応 (CM, AP, SP) を記録した.
    特に鼓室誘導法はS/N比, 精度など手術的正円窓誘導法に匹敵した. 音刺激には連続純音 (500Hz~1000Hz)及び短音を用いた.
    正常者12名, 伝音系難聴患者6名, 内耳性難聴患者26名, 計44名の被検者に対して蝸牛電気生理学的反応 (特にCM) の記録を行い, それぞれのCM特性曲線を求め検討した結果下記の結論を得た.
    1) 鼓室誘導法及び外耳道誘導法いずれの場合も高度難聴 (90dB 以上) を除くすべての被検者よりCM反応を得ることができた.
    2) 短音刺激時は鼓室誘導では, CM, AP, SPの合成反応, 外耳道誘導ではCM, APの合成反応が得られた.
    3) 正常者の連続純音に対するCM特性曲線は, 鼓室誘導では音圧と線型関係にあり正円窓誘導のCM特性曲線と近似したものが得られた. 外耳道誘導のCM特性曲線は音圧に対して非線型の複雑な関係にあつた.
    4) 伝音系難聴のCM特性曲線はオージオグラムの聴力損失の程度に比例して, 右方移動を示した.
    5) 内耳性難聴のCM特性曲線は正常型と異常型に分類できた. 正常型は正常耳と同様のパターンを示したものであり, 異常型は, CM振副の減少, 右方移動, 非線型化を示したものである. 内耳性難聴のオージオグラムパターンとCM特性頗線変化パターンとの相関関係についての結論は出せなかつた.
  • 綿貫 幸三, 河本 和友, 片桐 主一
    1970 年 73 巻 2 号 p. 178-181
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    本研究では, モルモット内耳における前庭球形のうの組織学的構造が, 光学顕微鏡を用いて観察された. 内耳の取出し標本に, 銀反応 (硝酸銀染色) を施した後, 観察に供された. 鐙骨を除去した後, 卵円窓周囲の骨壁を, 鋭利な針, および剃刃をもつて取りはずした. まず側頭骨をごく短時間, 蒸溜水にて洗い, 0.5% AgNO3溶液に約2分間浸した. その後すぐに, 蒸溜水で再び洗い, たゞちに10%ホルマリン溶液に入れ, 約20ルックスの螢光燈の下において, 骨壁が薄黄色になるまで, 約24時間固定した.
    1. 球形のう膜様壁後半部は, ほゞ扁平な, より大きな上皮細胞から構成されている.
    2. これらの, より大きな上皮細胞は, 内リンバ管に近づくにつれて, 小さくなり, 形も紡錘形となり, しばしば渦状配列をなすことがある.
    3. 球形のう膜様壁前半部, および球形のう斑周囲は, より小さな, しかし柱状の上皮細胞より構成されている.
    4. 球形のう斑感覚上皮は, 支持細胞, および Type-I と Type-II の二つの型の感覚細胞とより構成されている. この Type-I と Type-II 細胞の分布比率は, Striola および, ごく狭い範囲の球形のう斑末梢部を除けば, どの部分でも, ほゞ同一である.
    5. 球形のう斑を表面から観察する場合, 光学顕微鏡の焦点を, 感覚上皮全体の厚さの, 上部1/3の所に合わせると, フラスコ形の Type-I 感覚細胞, および柱状の Type-II 感覚細胞が, かなり明瞭に区別されるようになる. Type-I 細胞は, ふくらんだ部分があるので, 大きな円として, Type-II 細胞は, 小さな円として観察される. しかし正確には, 神経終末の差異により区別されるべきであり, 電子顕微鏡的観察が必要であると思われる.
  • 賀来 美寛
    1970 年 73 巻 2 号 p. 182-201
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    鼻副鼻腔疾患に栄養が大きく影響していることはすでに知られているが, ビタミンE (以下Eと略す) は近年多くの研究がなされているにもかかわらず, 耳鼻咽喉科領域での基礎的系統的研究は皆無といつてよく, そこでまず萎縮性鼻炎, 血管神経性鼻炎, 慢性副鼻腔炎, 肥厚性鼻炎の患者につき正常者を対照として血清中E量を測定し, 又全例にE負荷後血中値を測定した.
    最も低値を示したのは萎縮性鼻炎であり, Eとその病態成立が最も密接な関係にあると思われたが, 血管神経性鼻炎, 慢性副鼻腔炎においても正常者より低値を示し, 何らかの関連は否定出来ないと推考した.
    次に慢性副鼻腔炎の上顎洞粘膜につき病型別にE量を測定し, 又正常家兎及び実験的副鼻腔炎を惹起した家兎副鼻腔粘膜を螢光法による組織化学的検索及びミクロラジオオートグラフイにより観察した所, E定量では線維型は浮腫型, 化膿型に比し低値を示したが, E負荷による変動はいずれの型にもほとんど認められなかつた. 螢光法ではEはわずかに上皮, 腺に認められたが正常粘膜と病的粘膜の間に螢光の差は認められず, Eの負荷による螢光の増加も認められなかつた. オートラジオグラムでは上皮, 腺にグレインが観察された.
    さらに実験的E欠乏家兎の鼻粘膜を全身諸臓器と共に病理紹織学的に検索した所, 全身臓器ではすでに報告されている如き変化を得, 鼻粘膜では短期欠乏群で萎縮変性がみられ, 長期欠乏群では萎縮性が強く, 慢性炎症性所見がみられ, 純然たるE欠乏のみによる変化と断定は出来ないにしてもE欠乏により鼻粘膜にも病的変化を来す事は疑いないと断定した.
  • 出田 恭右
    1970 年 73 巻 2 号 p. 202-219
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    鼻アレルギー, アフタ性口内炎, リウマチなどの疾患には, 多くの場合潜在性の鼻咽腔炎が存在し, これに対して鼻咽腔局所治療を施行すると上記諸疾患が治癒ないし軽快することが多いことは, 既に当教室で度々発表している通りである. その治癒機転として, 鼻咽腔刺激が副腎皮質ホルモンに対して何らかの影響を与えるのではないかと想定して, 鼻咽腔刺激直前及び刺激後15分の二回に亘り血中11-OHCSを測定することにより, 鼻咽腔刺激が血中副腎皮質ホルモンに与える影響を検討した. 研究対象は, 鼻咽腔炎患者53名で, その中12名に鼻アレルギーを, 6名に副腎皮質ホルモン長期使用の既往を認めた. 尚, 16名については, 鼻咽腔炎の経過と11-OHCSの経過について観察した.
    得られた結論を要約すれば以下の如くである.
    1. 単純性鼻咽腔炎 (鼻アレルギー, ステロイド過使用既往などのない鼻咽腔炎) では35例中32例 (91%) に鼻咽腔刺激後血中11-OHCSに上昇を認めた. その上昇率は, +30%から+220%に及んだ.
    2. その上昇率を, 炎症の軽重度から観察すると, 炎症が高度なるものほど刺激後上昇率が著明であつた.
    3. 鼻アレルギー及びスデロイド長期使用例においては, 刺激後減少する傾向が見られた.
    4. 鼻咽腔刺激が単なる疼痛刺激ではなく, 特有の刺激であること.
    5. 鼻咽腔炎の消退に伴い, 単純性のものは下降し, 鼻アレルギー及びステロイド症例は上昇し, 両者共刺激後上昇率が±0~+20%に収斂する傾向が認められた.
    6. 以上の如く, 鼻咽腔刺激ないし治療は下垂体副腎皮質系に対して, 刺激作用ないしは賦活作用があるが如くに観察された.
  • 堀口申作教授開講25週年記念論文
    市川 秀一
    1970 年 73 巻 2 号 p. 220-236
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    近年急速な進歩と発展を見た生化学的ならびに生理学的研究法のなかで, 最近研究者の関心を集めている線維素溶解現象は基礎医学にとどまらず臨床各分野で注目されるようになつた. 線維素溶解現象は狭義の血液凝固系第4相にあたる Fibrinolysis をさすもので一般に血中ならびに組織中に存在する Fibrinolysin (Plasmin と呼ばれる). により cross-linked Fibrin がMetafibrin と Fibrinolysopeptideに加水分解され溶解する現象を総称するものである. この現象は生理的には血液の循環状態を正常に保つ目的として, またその修復機転において生体に重要な mechanism であり, その主体となる Plasmin level は自律神経により control されている. したがつて生体に stress や shock が加わつたり, 血栓症やアレルギー. その他種々の状態におい♦て Plasmin level ま高まり線維素溶解能は亢進すると考へられている.
    一方最近鼻咽腔炎は自律神経機構と極めて密接な関係を有することが教室における各種研究で明白になり全身的に大きな影響を持つものであることがわかつた. そこで鼻咽腔炎及びその治療が, 血液の線維素溶解能にどのような影響を及ぼし, さらに自律神経系といかに関係しているかを調べてみた. 両者の関係を明確にするために, 1) 鼻咽腔炎患者の血中線溶能 (鼻咽腔を刺激する前において採血したもの) 2) 鼻咽腔炎患者の鼻咽控を刺激した後の線溶能 3) 鼻咽腔炎治療前, 治療後における線溶能の比較, 4) 鼻咽腔刺激による指尖血管運動反射と線溶能との関係, 5) さらに自律神経薬物負荷による線溶能の変化を観察した. そして次のようなことがわかつた.
    1) 健康人での線溶能値は170分で線溶亢進群の急性鼻咽腔炎と低下群の慢性鼻咽腔炎とに分類され, その中間に悪急性群がある.
    2) 治療前鼻咽腔炎患者の鼻咽腔を刺激すると刺激後15分に活性は著明に亢進する.
    3) 治療により炎症が消退するとその変化率も少なくなり, 生理的範囲に復帰する.
    4) 線溶能と指尖血行動態を同時に平行して観察した結果, 線溶能の正常化と指尖血管運動反射ならびに自律神経不安定状態の鎮静は共に平行関係を保持して推移する.
    5) 自律神経薬物負荷時線溶系の動態を観察すると, 線溶活性のメカニズムは cholinergic なものにcontrol されているように考へられる.
  • 南条 昭一, 須賀 秋男
    1970 年 73 巻 2 号 p. 237-244
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    舌乳頭腫は時に悪性化の像を示すことがあり, 本邦の報告症例中40才台以上では約31%に病理組織学的に悪性化乃至はその疑いを認めた. 成因についても確説はまだなく, 外因として慢性刺戟の外に, Virus による感染などもあげられており興味ある点が少なくない
    治療は手術的除去が第一であるが, 著者らは手術を忌避した74才男子の拇指大の舌乳頭腫症例に, 梅沢らの発見による抗腫瘍性抗生物質である Bleomycin を計300mg筋注使用し, 臨床経過を観察する機会をもつた. そして約1年3ヶ月にわたつて, Bleomycin 使用による組織学的所見の推移を適宜観察し, 又電顕的に Bleomycin 使用前後の乳頭腫上皮の微細構造の変化を観察して次の如き結果を得たので報告した.
    1) 舌乳頭腫は Bleomycin 使用中は若干縮小したが, 使用中止後7ヶ月半では再び以前ほどではないが腫瘍が若干増大した. 副作用として軽度の食欲不振, 排尿痛などが認められた.
    2) 光顕所晃では Bleomycin 300mg 使用後, 細胞の Degeneration が顕著となり, 使用中比後2ヶ月半でも細胞の Degeneraion や, Spineformation の不明瞭な部が認められたが, 使用中止後7ヶ月半では Bleomycin 使用前と略同様に Differentiation もよくなつており, 細胞の Degeneration も軽度となつていた.
    3) 電顕所見では Bleomycin 300mg 使用後, 一部基底細胞の核周辺の不明瞭化, 細胞質中の densebody の出現と, 一部有棘細胞での dense-body の増加, 核の陥入化, 細胞質内の空胞化, 一部核質の粗造化などが認められた. Virus particles や viral inclusion などは認められなかつた.
  • 主として物質の吸収について
    永江 温
    1970 年 73 巻 2 号 p. 245-254
    発行日: 1970年
    公開日: 2007/06/29
    ジャーナル フリー
    抗生物質の経気管的注入療法あるいは表面麻酔剤の局所注入された物質に対して気管, 気管支粘膜が如何なる態度を示めすものかを知ることは必要かつ重要である. そこで私はマウスおよびラット気管気管支肺胞系に於いて物質の透過性に関与すると云われているATPアーゼの電子顕微鏡的検出及び炭末, デキストラン鉄, フェリチンを気管気管支内へ吸入あるいは注入後, 経時的に電子顕微鏡にて観察する事により, 気道内細胞に物質の透過性の存在することを証明出来た.
    1) ATPアーゼ
    気管上皮の細胞膜, 無線霊細胞の microvilli および線毛自身には存在せず, その間に存在する microvilli に多量のATPアーゼ活性を認めた.
    2) デキストラン鉄液注入例
    同粒子は線毛細胞表面, 線毛及び microvilli 表面及び気管腔内には認めるが細胞内には認められない. 又肺においては塵埃細胞内にデキストラン鉄粒子の存在を認めた.
    3) フェジチン液注入例
    同粒子は線毛細胞の表面に多量に附着を認め, microvilli は相対的に増量し, その中の vesicle 及びその下方の vesicle も増し, その内部へ, いわゆる pinocytosis の形で vesicle 内へ多量のフェリチン粒子の侵入が認められた. 肺胞上皮細胞, 壁細胞内にもこの追跡子が存在した.
    4) 炭末吸入例
    短時間吸入例においては, 線毛附近の粘液層間にも, 炭末は認められなかつたが, 長時間注入例においては繊毛が消失し, 線毛細胞の破壊と細胞内へ多量の炭末の侵入を認めた. 又 basement membrane は存在し, 構造の保存されている basal cell への粒子の侵入は殆んど認めなかつた.
    又前二者と同様, 肺内細胞にも炭末の侵入像を観察した.
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