日本耳鼻咽喉科学会会報
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平均加算法による乳幼児大脳誘発電位聴力測定法の基礎的研究
井端 幸子
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1970 年 73 巻 3 号 p. 311-334

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抄録

1. 目的
A.E.R. audiometry を臨床的に乳幼児について施行する際, 出来るだけ短時間に検査を終了することが望ましい. このために, まず本検査法を短時間にしかも最も効果的に施行するための基礎的な諸条件を正常児において気導および骨導刺激を用いた場合の各々について検討した. 次いで本検査法を臨床的に各種難聴児群に対して応用し, 本法が単に域値の測定に用いられるのみならず, 難聴の性質の鑑別診断に応用されうるか否かを検討した.
2. 実験法
実験の block diagram は図の如くである. なお脳波は前頭部および乳突部に銀製皿電極を絆創膏固定し導出した. 又脳波計増巾器の時定数は0.1secとした. 本実験に用いた電子計算機はC.A.T. 400BMnemotron U.S.A. である. 聴覚刺激としては立ち上り下り時間: 10msec, 持続時間: 50, 100, 250msec の梯形音を1秒1回の割合で用いた.
原則としては自然睡眠時に検査を行つたが, 場合によつては抱水クロラール誘導体 monosodium trichlorethyl phosphate を睡眠誘発剤として用いた.
3. 実験結果
(1) 使用する音刺激の持続時間は, 立ち上り下り時間: 10msec, 刺激頻度: 1/secとした場合, 100msec が最も良い.
(2) 音刺激を上昇法で与えても又下降法で与えても域値差は観察されなかつた. habituation を考慮すれば10~20dB step の上昇法で行うことが望ましい
(3) 域値上40dB以上と推定される場合には加算回数は100~200, 域値近辺であれば200~300が妥当である.
(4) 骨導刺激による A.E.R. Audiometry では主として振動が問題となる. 我々の実験では骨導刺激を用いた場合にも背景脳波の歪みは観察されなかつた. 又, 気導, 骨導刺激ともその誘発電位は非検耳のマスキングの影響を受けなかつた.
(5) 年令が大きくなるに従い本検査法による反応域値は次第に下降し2才以上ではほゞ一定の値を示した. 即ち会話音域においてはその値は30dBであつた.

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