日本耳鼻咽喉科学会会報
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モルモット後半規管膨大部における電気現象
特にマイクロフォン電位の刺激受容伝達機構における役割について
井上 靖二
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1970 年 73 巻 3 号 p. 353-378

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抄録

内耳は音という機械的振動又は圧変動を受け, それを神経インパルスに変換さすトランスデューサーの役割を演じている. この内耳の有毛細胞と末梢1次感覚ニューロンとの間の刺激受容伝達機構を解明するために本実験を行つた.
正常およびろうモルモットを実験動物とした. それらの後半規管膨大部骨壁を開窓し, 同側外耳道より音刺激を負荷して後半規管膨大部より諸電位を記録観察して以下の結果を得た.
(1) 後半規管膨大部内リンパ腔には蝸牛における Endocochlear Potential のような高い正電位は存在せず, 最小0mVから最大11mVの間の低い正電位が記録された. しかし蝸牛のコルチ内負電位に相当する-10mVから-30mVの不安定な負電位が膨大部稜で記録された.
(2) 膨大部マイクロフォン電位が記録された. 反応周波数領域は 2kHz迄であり, その強度特性も低周波数に傾くにつれて閾値は下降し, かつ出力は増大した.
(3) 膨大部マイクロフォン電位は膨大部稜有毛細胞層を狭んでその極性を逆転した. 膨大部内リンパ腔では記録部位, 刺激音圧の如何に拘わらずその極性は常に陰性を示した.
(4) 膨大部々イクロフォン電位の Superposition Effect が観察された.
(5) 後膨大部単一神経線維より自発放電および音刺激に反応して誘発される放電が記録された. これらの神経線維より0.25kHzから2kHz迄の音刺激に誘発される活動電位が記録された. 音刺激が低周波数に傾くにつれて誘発放電を得る閾値は下降した.
(6) 音刺激が低周波数で, かつ一定音圧以上の時, 後膨大部神経線維の活動電位は膨大部マイクロフォン電位の各周波数に1対1に対応して反応した. 活動電位は膨大部マイクロフォン電位の興奮性位相に反応して誘発された.
(7) マイクロフォン電位が内耳有毛細胞と末梢1次感覚ニューロンの間の刺激受容伝達機構の中で有意な役割を演じているといえる結果を得た.
(8) マイクロフォン電位と Summating Potential の相互関係が有毛細胞の形態的極性から一元的に説明された.

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