日本耳鼻咽喉科学会会報
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水平・垂直性視機性眼振検査の臨床的研究
石川 和光
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1970 年 73 巻 8 号 p. 1329-1349

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抄録

平衡機能検査上, 臨床的に実用化できる水平性, 垂直性加速度視機性眼振検査法を確立するために, Jung型方式の加速度視機刺激を水平性・垂直性に与え, 正常人25名について, 至適な視機刺激を選定し, この至適刺激による正常範囲, 水平性, 垂直性の視機性DP%を統計的に算定し, 眩暈症1000名について, この水平性, 垂直性加速度視機性眼振検査の診断的意義を検討した.
1) 水平性・垂直性視機刺激共に1.2°/sec2の等加速度, 刺激時間100秒, 最終角速度120°/secが臨床検査として至適である.
2) 水平性・垂直性視機性眼振検査の判定基準は眼数振に頼信性が高く, 水平性眼振数の正常範囲は, 280-100, 総反応量に対する左右差DP%値は15%で, 垂直性眼振数の正常範囲は, 250-80, DP%値は25%と統計的に算定されたが, 緩徐相の最大眼球速度 (MES), 眼振が活発に持続的に解発されてMESに達した時の適応限界速度 (OAL), 眼振頻度等, 眼振反応の推移を示すeye-speed pattern等も参考にすることが望ましい.
3) 垂直性視機性眼振は, 水平性に比して, 適応限界速度 (OAL) も低く, 眼球追随運動も劣るため, 正常範囲が広く, 上下差の変動も大きく, 異常の判定がやゝ難しいが, ほゞ対称的に解発される.
4) 平衡障害, 眩暈症1000名中, 水平性, 垂直性視機刺激による水平性異常例129名, 垂直性異常例169名で, 垂直性視機刺激による異常所見摘発率が高かった.
5) 水平性, 垂直性共に, 視機性眼振検査の病的所見は, 視機性DP, 両側抑制又は中絶, 一側抑制と視機性DP, 視機性錯倒現象 (optokinetic inversion), 第2相亢進等に分類されたが, 視機性DPを除く, 他の病的所見は中枢性病変に高率に認められた.
6) 視機性眼振錯倒症は, 両側性, 一側性に分けられるが, 1000例中, 水平性錯倒13例, 垂直性錯倒4例でいずれも中枢性疾患を示した.
7) 定位脳手術による上丘中脳部の病巣例に輻輳性眼振と垂直性視機性眼振の上向き消失が認められ, 水平性視機性眼振と垂直性視機性眼振で, 障害の責任部位が異なることが他の臨床例も含めて確認された.
以上, 視機性眼振検査には水平性刺激のみならず, 垂直性刺激が必要であり, 両者の総合判定により鑑別診断的意義が飛躍的に向上することが確認された.

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