日本耳鼻咽喉科学会会報
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73 巻, 8 号
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  • 椎名 睦郎
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1283-1292
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    蝸牛神経核にみられるような側方抑制の機序が上オリーブ核にも存在するかどうかを明らかにするため本実験を行った.
    猫を用いて上オリーブ核ネウロン113ユニットの反対側耳音刺激に対する反応を詳細に観察し, 次の如き結果を得た.
    1) 応答野は蝸牛神経核のものに類似している. また特徴振動数が互いに近い応答野はその形状も似ており, 特徴振動数が高いものほど閾値上20dbにおける応答帯域のオクターブ数は小さい.
    2) 上オリーブ核ネウロンの反応様式はゆつくりとした順応を示す連続型が大部分であるが, 応答野周辺近くでは反応型が変わる場合が多い.
    3) 特徴振動数より高い周波数の音刺激で自発放電の抑制されたものが3ユニット認められた. この抑制野は高音側の応答野外側に相当した.
    4) 特徴振動数より低い音刺激で自発放電の抑制されるユニットは全く認められないが, 特徴振動数の連続音刺激で誘発された放電は, より低音の閾値附近の刺激で抑制された.
    以上から, 上オリーブ核においては少なくとも低音側に側方抑制の機構は存在しないと想定された.
  • 佐々木 浩
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1293-1303
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    外リンパの生成, 流動, 吸収に関する実験は数多くなされているが, いまだに, 定説をみない. 上記部位を直接, 光顕的に確認するためには, なお多くの解決せねばならない問題点が残されている. 種族差はとよもり, 用いたtracerの比重, 分子量, 溶解性, 組織親和性, 異物反応などの物理化学的性質, 実験手技など考慮されねばならない.
    本実験は, 鉄欠乏性貧血の治療剤として, 日常広く臨床に用いられているデキストラン鉄が, 大量に静脈内注射出来ること, 細胞内を生理的に自由に透過出来ること, パラフィン切片作成後, 鉄反応 (ベルリン青法) によって容易に発色されることの利点より, これをtracerとして使用した.
    モルモット腹腔内に, デキストラン鉄25mgを連日, 20日間注射した場合, 鉄顆粒は, 蝸牛内組織にあっては, (1) 蝸牛軸血管周囲結合織 (いわゆるPlexus cochlearis) および, (2) 蝸牛小管迷路口部網状組織にのみ特異的に出現する. また, モルモットの脳脊髄液約0.5mlを除去し, これと等量のデキストラン鉄をクモ膜下腔に注入した場合, 24時間後例においては, 鉄顆粒の蝸牛組織内出現は認められないことから, 腹腔内に注入されたデキストラン鉄は, 血行性に上記両部位に出現するものと思われる. そこで, これらの部位について各々, 血管分布, コハク酸脱水素酵素活性を検索した結果, 両者共に外リンパとの密接な関係が認められた. 特に後者にあっては, 脳脊髄液の単なる交通路というよりはむしろ, 外リンパの分泌, 吸収により大きな役割を果しているものと推論された.
  • 菅 文朗, 中島 恒彦
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1304-1310
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    内リンパの組成については従来in vitro測定が行われてきたが, 今回われわれは特殊な微小ガラス電極を用いてモルモット内リンパのNa+およびK+濃度変化を生体内で測定することに成功した. Na+濃度の測定にはCorning社NAS 11-18ガラス電極を用い, K+濃度の測定にはNAS 27-4ガラス電極を用いた. 動物実験に先立って, 各種条件がNa+およびK+濃度の測定におよぼす影響について基礎実験を行った. モルモットでの測定では蝸牛基底廻転のscala mediaに微小測定電極と微小比較電極を刺入した. 呼吸停止によって内リンパのNa+濃度は著しく増加し, K+濃度は減少した. 呼吸再開によってNa+およびK+濃度は以前のlevelに戻ったが, その際にreboundを示す例が多かった. 強大音響刺激は直ちに内リンパのNa+濃度を増加させ, K+濃度を減少させた. Asphyxiaや強大音響刺激による内リンパNa+濃度の変化は内リンパ静止電位の変化とほぼ逆比例し, 内リンパK+濃度の変化は内リンパ静止電位の変化とほぼ正比例することがわかった.
  • 模型実験による観察
    橋口 哲美
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1311-1328
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    蝸牛殼の振動機構に関しては, Georg von Békésyが模型実験ならびに屍体の新鮮側頭骨標本を用いての一連の実験で, 基底膜のtraveling waveを実際に観察して, 内耳振動系の詳細な研究報告を行なっている.
    一方, 音響外傷に関する基礎実験として, ひいては聴覚生理の解明のため, 強大音による聴器刺激の実験的研究が古くから数多くなされている. 正常な聴器が一定の強さをもった音響刺激をうけると, その刺激音に対する一過性の聴力低下がおこることはよく知られた事実であり, 刺激音の音圧が増して強大音圧になると, 刺激直後の一過性の聴閾値の上昇が最大になる周波数は刺激音と同じ周波数ではなくて, それより高音域にずれて出現する現象が一般的に認められている. また病理組織学的にも強大音の刺激による蝸牛内ラセン器の損傷部位が, 刺激純音の感受部位よりおもに高音域へ向って広がる傾向が認められている. 著者はこれらの現象を蝸牛の水力学的研究から解明できないものかと考え, 蝸牛の模型実験を行った.
    その結果, 刺激音圧が弱い場合には, 基底膜の最大振幅部位に一致して, scala内に楕円形の渦が形成されるが刺激音圧が強まるにつれて, 楕円形の渦の形がしだいにくずれて蝸牛底方向へ大きく広がると共に, しかもその側の渦流運動は加速されて蝸牛底側の基底膜に激突するようになる. しかし渦の中心位置は移動しない. これに反して, 渦の蝸牛頂方向への広がりは極めて僅かである.
    基底膜の運動も刺激音圧が増大するにつれて, 振幅が増大するがそれは最大振幅部位の蝸牛底側で著明である. しかし最大振幅部位は移動しない. これに反して, 蝸牛頂方向への振動範囲の広がりは極く僅かである.
    これらの実験結果より, 刺激音圧が増大するにつれて, 最大振幅部位は移動しないが, 渦の形の乱れと共に加速された渦流による基底膜の刺激範囲が漸次蝸牛底側に広がることより, その最大刺激部位もしだいに蝸牛底側に移動することが考えられる. このことより, 本実験成績は聴覚疲労実験にみられるTTSの周波数分布ならびに音響外傷の受傷部位の解明に一役を演ずるものと思われる.
  • 石川 和光
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1329-1349
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    平衡機能検査上, 臨床的に実用化できる水平性, 垂直性加速度視機性眼振検査法を確立するために, Jung型方式の加速度視機刺激を水平性・垂直性に与え, 正常人25名について, 至適な視機刺激を選定し, この至適刺激による正常範囲, 水平性, 垂直性の視機性DP%を統計的に算定し, 眩暈症1000名について, この水平性, 垂直性加速度視機性眼振検査の診断的意義を検討した.
    1) 水平性・垂直性視機刺激共に1.2°/sec2の等加速度, 刺激時間100秒, 最終角速度120°/secが臨床検査として至適である.
    2) 水平性・垂直性視機性眼振検査の判定基準は眼数振に頼信性が高く, 水平性眼振数の正常範囲は, 280-100, 総反応量に対する左右差DP%値は15%で, 垂直性眼振数の正常範囲は, 250-80, DP%値は25%と統計的に算定されたが, 緩徐相の最大眼球速度 (MES), 眼振が活発に持続的に解発されてMESに達した時の適応限界速度 (OAL), 眼振頻度等, 眼振反応の推移を示すeye-speed pattern等も参考にすることが望ましい.
    3) 垂直性視機性眼振は, 水平性に比して, 適応限界速度 (OAL) も低く, 眼球追随運動も劣るため, 正常範囲が広く, 上下差の変動も大きく, 異常の判定がやゝ難しいが, ほゞ対称的に解発される.
    4) 平衡障害, 眩暈症1000名中, 水平性, 垂直性視機刺激による水平性異常例129名, 垂直性異常例169名で, 垂直性視機刺激による異常所見摘発率が高かった.
    5) 水平性, 垂直性共に, 視機性眼振検査の病的所見は, 視機性DP, 両側抑制又は中絶, 一側抑制と視機性DP, 視機性錯倒現象 (optokinetic inversion), 第2相亢進等に分類されたが, 視機性DPを除く, 他の病的所見は中枢性病変に高率に認められた.
    6) 視機性眼振錯倒症は, 両側性, 一側性に分けられるが, 1000例中, 水平性錯倒13例, 垂直性錯倒4例でいずれも中枢性疾患を示した.
    7) 定位脳手術による上丘中脳部の病巣例に輻輳性眼振と垂直性視機性眼振の上向き消失が認められ, 水平性視機性眼振と垂直性視機性眼振で, 障害の責任部位が異なることが他の臨床例も含めて確認された.
    以上, 視機性眼振検査には水平性刺激のみならず, 垂直性刺激が必要であり, 両者の総合判定により鑑別診断的意義が飛躍的に向上することが確認された.
  • 田原 一繁
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1350-1366
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    前庭器に加えられる刺激の機械的エネルギーは感覚細胞において電気的エネルギーに変換される. 前庭系の構造と機能との相関を追究してゆくことが, 前庭系の本態を解明し, ひいては身体平衡系の態度を把握する糸口となると考える.
    構造については電子顕微鏡的研究が進められている. また, 他方, 機能については深く追究し得る電気生理学的手技が要求される.
    著者はこの様な観点から, 前庭末梢受容器の刺激受容機序を知る一助として, カエルを用い, まず各々の半規管膨大部神経の自発放電をとらえ, 次に等角加速度回転迷路刺激によってそれぞれの膨大部神経にみられる興奮波伝導の様相を電気生理学的方法によって観察して得た実験成績について, 平衡機能に関する従来の知見, 前庭迷路受容器の電子顕微鏡的知見, および電気生理学的方法による古今の業績などを参照し, 考按を加えた結果, 次のように結論した.
    (1) 三つの半規管膨大部神経のいずれからもそれぞれ自発放電を認めるが, その放電頻度を比較してみると外側膨大部神経から誘導されたそれは著しく多いが, 前または後膨大部神経からは少ない.
    (2) いずれの半規管においても, 程度の差はあつても, 刺激により常に放電頻度の増加を認める. すなわち, リンパ流動の方向いかんにかかわらずその刺激は“effective”である.
    (3) 外側半規管における向膨大部流は“more effective”であり, 反膨大部流は“less effective”である.
    (4) 前または後半規管における向膨大部流は“less effective”であり, 反膨大部流は“more effective”である. この事実は前記外側半規管の場合と比べて, まつたく対称的である.
    (5) 外側半規管に対するOptimum stimuliは等角加速度0.25°/sec2附近あるいはそれ以下であるが, 前または後半規管に対するそれは等角加速度1°/sec2附近である.
  • 藤田 洋右
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1367-1381
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    所謂鼻アレルギー (以下鼻ア. と略す) における鼻粘膜において, 細菌がatopenとして鼻ア. 発症に直接関与し得るか否かと言う問題を解明する為に, 以下の方法により種々の検討を行なった.
    方法:
    1. 鼻腔の代表的な常在菌の一つである黄色ブドウ球菌をmodel microbeとして使用した.
    2. 螢光抗体法により, 鼻粘膜内のブドウ球菌及び抗細菌抗体を検索した.
    3. 黄色ブ菌菌体を超音波発生機により破壊し, Verweyの方法により以下の成分に分画した. 1) 核蛋白, 2) 細胞壁の蛋白抗原, 3) 細胞壁の多糖体抗原.
    4. 各分画液により, モルモット及び家兎の皮内反応を行ない, 各分画液が, これら動物の皮膚の血管透過性を亢進させる物質を含まない事を確かめた.
    5. 上記分画液を用いて, 鼻ア. 患者に皮内反応Prausnitz-Küstnerの反応を行った. 又黄色ブ菌凍結乾燥末により鼻粘膜誘発試験を行なった.
    結果:
    1. 鼻ア. 鼻粘膜においては, ブ菌と抗細菌抗体産生細胞は, 対照群に較べてより高率に検出された. 抗細菌抗体の局在は, 形質細胞及びリンパ球様細胞の原形質に認められた.
    2. 菌体成分分画液による即時型皮内反応は, 基本的には抗原抗体反応であり, 反応の形態及び様式はアトピー型である.
    3. 菌体成分の中でも, 細胞壁の抗原が, 他の成分に較べて細菌アレルゲンとしての意義が大きい.
    4. 鼻腔から黄色ブ菌が検出された症例では, 多糖体抗原による即時型皮内反応が強く出る傾向がある. この抗原による即時型皮内反応から, 鼻粘膜局所における細菌アレルギーの存在を推測出来る.
    5. ブ菌菌体成分に対する血中のレアギン型抗体が検出される例は少ない. しかしながらこの事実のみからは, 鼻ア. におけるatopenとしての細菌の関与を否定する事は出来ない.
    6. 鼻ア. における黄色ブ菌凍結乾燥末による誘発像も又, 基本的にはアトピー型であると推察された. 又多糖体抗原による即時型皮内反応と, 誘発試験はよく比例した.
    結論:
    細菌はatopenとして直接鼻ア. 発症に関与し得る. 細菌によるアトピー型アレルギーの関与は, 血管運動性鼻炎だけではなく, 主に吸入性抗原が病因抗原である鼻アレルギーにおいても存在する.
  • 土屋 紀一
    1970 年 73 巻 8 号 p. 1382-1390
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    1) 目的
    腎炎発症に際して, 扁桃が病巣感染源としてその発現機序の中で何らかの位置を占め, 特に溶連菌の感染が重要な意義を有していると考えられている. しかし溶連菌感染から如何にして腎炎が発症するかの機序については未だ結論が得られていない. 先ず扁桃において溶連菌に対する抗体が産生されるものと考えられるが, この点に関する免疫組織学的研究は多くない.
    著者は溶連菌のうちでもA群12型が催腎炎性が強いことに鑑み, その型特異物質であるM proteinを用いて, ヒト扁桃におけるその抗体の局在およびM proteinの局在などを, 免疫組織学的に研究し, 溶連菌感染に際し, ヒト扁桃内に惹起される免疫学的反応を明らかにすると共に, 腎炎発症との関連性を追求することを企図した.
    2) 実験方法
    M proteinの分離は次の如くに行った. 溶連菌A群12型の菌株をmouse passageにより強化し, 大量培養後, 菌体からpH2.0, 95℃の下にM proteinを抽出し, ribonucleaseにて核酸を除去し, 硫安分画を行った. 抗M protein抗体の証明には螢光抗体補体法を用いた. 補体はモルモット血清を, 抗補体血清はモルモット血清グロブリンを家兎に感作したものを使用した. 螢光物質にはfluorescein isothiocyanateを用い, sephadexにて遊離色素の除去を, DEAEセルローズにて非特異物質の除去を行った.
    M proteinの証明には螢光抗体直接法を行った. 抗血清には溶連菌12型の型血清を使用した.
    用いた材料は慢性扁桃炎患者および亜慢性腎炎 (木下) 患者の扁桃である. これらの扁桃より凍結切片を作製して染色を行った.
    3) 結果
    扁桃の上皮下組織には比較的多数の抗M protein抗体を含む細胞が局在していた. また被膜および中隔には多数の抗体含有細胞が局在し, 特に亜慢性腎炎患者の扁桃において著明であった. このことから溶連菌感染に際し扁桃内に溶連菌抗原に対する抗体が産生されていると考えられ, 溶連菌感染を繰り返しているうちに被膜結合織に腎障害性物質が生ずる可能性が推察された.
    またM proteinは腺窩内不全角化上皮に特徴的に認められたが, これは扁桃に対して抗原刺激が持続的に加わることを意味するものと思われた. 培養によっても溶連菌が検出されなかった扁桃において, 同様な所見を認めることから, 菌陰性でも溶連菌による抗原刺激が存在する可能性があることが示された.
  • 1970 年 73 巻 8 号 p. 1391-1411
    発行日: 1970/08/20
    公開日: 2010/12/22
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