日本耳鼻咽喉科学会会報
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言語発達遅滞の臨床的研究
田中 美郷
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1971 年 74 巻 8 号 p. 1271-1303

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抄録

本研究の目的は難聴や精薄,小児精神病,および脳性麻痺のごとき中枢神経傷害の認められないにかかわらず言語発達の遅れた一群のいわゆる「言語発達遅滞」の実態を明らかにすることにある
まず原因を明らかにするために,昭和35年から45年の間に扱つた言語障害児1166名のうち,比較的例数の多かつた難聴児600名,精神発達遅滞児241名,脳性麻痺59名,言語発達遅滞児162名,および対照として正常3歳児500名について,家族歴,既往歴,発達歴を詳細に調べ,比較検討した.その結果言語遅滞には遺伝の関与するもののあることが推測されること,女に比して男に約26倍多いこと,妊娠中および分娩周辺期の原因は難聴,精神発達遅滞,脳性麻痺のそれと共通していて言語発達遅滞に特有なものはないこと,等がわかつた.このことからすると,あるNoxeが妊娠中ないし分娩周辺期の胎児または新生児の感覚器や神経系に作用した場合,その作用する部位や範囲,程度等によつて難聴,精神発逹遅滞,脳性麻痺または言語達遅滞が単独で生ずるか,またはいろいろな組合せによる合併疲として生ずるであろうという仮説をたてた
また,症状のうち特に運動機能について検討を加え,言語発達遅滞は運動麻痺がないにかかわらず処女歩行の年令の遅れるものが正常児に比して多く,かつ随意運動の発達障害を有するものが多いことを認めた
さらに,初診時言語発逹遅滞ない聴唖と診断され,現在就学中の62名について追跡調査したところ,誤診例として進行性筋萎縮症1例,難聴3例,精薄7例があう,またこれらを除いた51例についてみると依然として何らかの形の言語障害および随意運動障害を有するものの多いことを知つた.この事実は言語遅滞には就学後も特別な配慮の要するものが少なくないことを意味する
最後に,誤診例を中心に精薄を合併した聴唖,協同運動障害および行為障害を伴う言語発達遅滞,進行性筋萎縮盤,聴覚失認を疑がわせた難聴例,発達性語聾およびその類似例について言語達経過を述べた.

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